放射線照射後の萎縮胸腺内に胸腺前リンパ腫細胞が発生するが、この前リンパ腫の母体細胞の同定を試みた。Bcl11bの片アレル消失、すなわちBcl11bヘテロ遺伝子型は、放射線誘発リンパ腫に高感受性を与え、前リンパ腫細胞形成に関与する。そこで、特定の胸腺細胞分化段階、DN2段階以降の胸腺細胞特異的にBcl11b-KO/+となるLck-Cre;Bcl11b-lox/+マウスおよびDP段階以降の胸腺細胞でBcl11b-KO/+となるCD4-Cre;Bcl11b-lox/+マウスを作製し、実験を行った。γ線3Gy照射後60日で各遺伝子型マウスの胸腺細胞を摘出し、異常増殖する胸腺前リンパ腫細胞が出現するかどうか検討した。その結果、Lck-Cre;Bcl11b-lox/+マウスでのみ前リンパ腫細胞が出現し、照射後300日までに胸腺リンパ腫を発症した。これらのことから、DN2段階以降の胸腺細胞に発がん母体細胞が含まれると考えられた。CD4-Cre;Bcl11b-lox/+マウスでは前リンパ腫細胞は出現せず、DP段階以降の細胞は発がん母体細胞とはならないと考えられた。しかし、Lck-Cre;Bcl11b-lox/+マウスに出現した前リンパ腫細胞はTCRβ発現の高いDP段階以降の分化細胞で構成されていたため、発がん母体となる細胞は分化能を保持していると考えられた。次に、Bcl11bヘテロ遺伝子型が放射線照射後の胸腺細胞に及ぼす影響について解析を行い、Lck-Cre;Bcl11b-lox/+マウスのISP未分化細胞においてγ線照射後に生じる細胞周期停止が減弱することが分かった。Bcl11b片アレル欠失による細胞周期停止の異常が、一部の胸腺細胞にDNA損傷を蓄積させる要因となり、胸腺前リンパ腫細胞の形成および胸腺リンパ腫発症に貢献すると考えられた。
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