研究課題
放射線による子宮内被曝は精神遅滞を伴う重度小頭症を誘発する。しかし、小頭症発症の分子、細胞レベルでの発症機序は不明な点が多い。本研究では、遺伝性小頭症の原因遺伝子の同定と機能解析を通じて、小頭症発症の分子機構の解明を研究目的としている。本年度は、小頭症患者とその両親3家系分のエクソーム解析を行った。現在、劣性遺伝形式を示す新規SNPの抽出を行い、原因変異の絞り込みを行っているところである。一方、小頭症の候補遺伝子が真の原因遺伝子であるかを検証するために、本研究では人工ヌクレアーゼTALENを用いたヒト培養細胞株における効率的な標的遺伝子破壊のプロトコールを構築した。また、ゲノム安定性維持を担う分裂期チェックポイントの主要分子であるBUBR1が先天的に欠損して生じる染色分体早期解離(PCS)症候群は、高発癌性だけでなく重度小頭症も発症する。日本人PCS症候群患者では、片アリル性にBUBR1遺伝子のエクソン内に変異を認めるが、もう一方のアリルはBUBR1発現低下を認めるがエクソン内変異は検出されない。本研究では、Long-Range PCRと次世代シークエンサーを利用して、日本人PCS症候群家系に共通して検出されるBUBR1遺伝子を含む0.2Mbのハプロタイプを解析したところ、BUBR1遺伝子の転写開始点上流約40kb上流にPCS症候群発症に関連する新規SNPを同定した。TALENを用いて本SNPをヒト正常細胞に導入するとBUBR1遺伝子発現の低下とPCS症候群患者細胞と同様の分裂期異常を示したことから、新規SNPがPCS症候群発症の原因変異であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
研究初年度の重度小頭症遺伝子同定はDNA修復経路に関連する候補遺伝子に着目した方法であったが、本年度はスクリーニングできる遺伝子数を増加できるエクソーム解析を3家系分について実施した。現在、劣性遺伝形式を示す新規SNPの抽出を行い、原因変異であるかを評価しているところである。また、候補遺伝子が真の原因遺伝子であることを証明するために、人工ヌクレアーゼを用いた効率的な標的遺伝子破壊をヒト培養細胞株で行うプロトコールを広島大学理学部・山本卓教授との共同研究で作成した。この共同研究の過程で様々な動物種や培養細胞でのTALEN/ZFNによるゲノム編集技術の有用性をPNAS誌、Genes to Cells誌に共著で発表した。
本年度までにエクソーム解析を行った小頭症患者は3例3家系と限定的であるので、今後は未解析の家系についてエクソーム解析を行い小頭症原因遺伝子の探索を継続する。また、本年度、人工ヌクレアーゼを用いた標的遺伝子破壊をヒト培養細胞でルーチンワークとして行える状態になったの。小頭症原因遺伝子が同定された場合、迅速に小頭症モデル細胞・動物の作成が行い、DNA損傷修復異常による小頭症発症の分子機構の理解を加速させる。
次年度は、原因遺伝子が未同定である重度小頭症患者について、エクソーム解析および高密度SNPアレイを行って原因遺伝子の同定を試みる。このために、網羅的遺伝子解析に必要な試薬を中心とした消耗品費が必要となる。また、本研究で得られた研究成果を国内外の学会で発表して、エクソーム解析、ゲノム編集といった技術的な情報だけでなく小頭症発症の分子機構についての情報収集を積極的に行う予定である。
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