研究課題
放射線被ばくにより有意に乳がんリスクが高まることが原爆被爆者の疫学調査により明らかにされている。申請者はこれまで,ラットを用いた放射線誘発乳がんにおいて有意に変化しているマイクロRNA(miRNA)を見出している。本研究では放射線とmiRNA発現変動の意味を乳がん細胞・がん幹細胞・血清といったレベルで明らかとしていくことを目的としている。平成23年度は培養系の立ち上げ,血清中miRNA検出系の立ち上げを行った。具体的にはヒト乳がん細胞MCF-7を用い,がん幹細胞が高率に含まれると言われているmammosphereと呼ばれる非接着の球状細胞集団を形成させるために,低接着プレートでbasic fibroblast growth factor,epithelial growth factor,insulin含有血清(-)培地にて培養し,非接着の球状の細胞塊を観察することができた。血清からのmiRNAの抽出はKosakaらの方法に従って採取した血液を遠心し,血清部分を分離し,そこからmicroRNeasy (Qiagen)を用いmiRNAを分離した。放射線誘発乳がんで発現変動が見られたmiR-135b,miR-192,miR-194の細胞増殖等の機能解析を行ったところ,miR-194を乳がん細胞株で抑制することにより,細胞増殖が阻害された。
2: おおむね順調に進展している
血清からのmiRNAの抽出法の確立ならびに乳がん細胞株での特定のmiRNAの調節による細胞増殖等への影響解析は当初の予定通りすすみ,成果が得られた。特に後者の検討に予想よりも時間がかかったため,mammosphereの解析は来年度以降精力的に解析を進めていく予定である。
今年度に確立した実験系を用いて,がん幹細胞ならびに放射線被ばくにより乳がんを発症したラット血清におけるmiRNA発現を解析する。これらの結果と放射線誘発乳がんで発現変動しているmiRNAとの関連性を確認する。がん幹細胞では放射線被ばくにより細胞が示す変化,遺伝子・miRNA発現がどのように変化するか検討する。引き続き放射線誘発乳がんに特徴的なmiRNAやがん幹細胞特異的なmiRNAのがん幹細胞での機能解析を行う。この結果から真にmiRNAが放射線誘発乳がん発生プロセスに関与したり治療のターゲットとなるのかが明らかとなる。また,放射線被ばくせず乳がんを発生させたラットや乳がんを発生させなかったラット血清,必要に応じて放射線被ばくしたラットから乳がんが確認できる段階までの継時的な血清に関し,miRNAの発現変動を観察していくことで,真にそれらmiRNAが放射線誘発乳がんのバイオマーカーとなりうるのか,検証していく。
前述の研究を遂行するために,細胞培養関連試薬,miRNA解析関連試薬等が必要になるため購入予定である。また,得られた結果によっては当初予定していなかった試薬等が必要になることが予想されるため,柔軟に対応する予定である。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Mol. Carcinog.
巻: 50 ページ: 539-52
10.1002/mc.20746