研究課題/領域番号 |
23710075
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
臺野 和広 独立行政法人放射線医学総合研究所, 放射線防護研究センター, 研究員 (90543299)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 乳腺 / 発生・分化 / 放射線 / DNA損傷修復 |
研究概要 |
乳腺は、放射線発がん感受性の高い組織である。これまで、乳がんのリスクが幼少期や思春期の被ばくで高いことや、妊娠・出産を経験することによりリスクが低下することが示唆されているが、それは乳腺が増殖・分化と脱分化・退縮のサイクルを繰り返すことができるユニークな器官であり、その過程において放射線に対する応答が大きく異なるためであると考えられる。しかしながら、それら放射線感受性の違いをもたらす分子基盤は依然として不明である。今年度は、これまでに見出した乳がん原因遺伝子BRCA1と結合しDNAの損傷修復に関わる遺伝子(10種)の乳腺における発生・分化過程および放射線照射による発現変動を、動物個体レベルにおいて検証することを目的とした。具体的には、幼若期(3週齢)、思春期(7週齢)および経産前後の雌ラット(各3~4個体)より、乳腺組織サンプルの採取および、組織標本の作製を行った。また、上記修復遺伝子の発現変動と、放射線感受性の関連性を明らかにするため、幼若期および、思春期にガンマ線(5 Gy)全身照射を行ったラット(各3~4個体)より、照射1、3、6、12、24および48時間後の乳腺組織サンプルを採取し、組織標本の作製を行った。作製した組織標本を用いて、免疫組織化学染色法による候補遺伝子およびDNA損傷マーカーであるガンマH2AXタンパク質の検出のための条件検討を行った。それらの内、BRIP1遺伝子について、同遺伝子産物の実験動物個体内における発現と放射線照射による発現上昇を確認したことから、RNA干渉法を用いた遺伝子操作による遺伝子発現抑制乳腺細胞の作製を行った。今年度の研究結果は、乳腺の発生・分化にDNA損傷を修復する遺伝子が機能していることや、発生・分化の過程で機能するDNA損傷修復機構や修復活性の違い、発がんへの関与を明らかにするための基礎的情報を提供するために重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳腺における発生・分化過程および放射線照射による候補遺伝子10種全ての詳細な発現変動解析は、それらを検出するための実験条件の検討に予定よりも多くの時間を要したためやや遅れているが、今年度に見出したBRIP1遺伝子については、その遺伝子の発現を遺伝子操作により抑制した乳腺細胞を作製し、乳腺の発生・分化および放射線感受性への関連性を示す予備的結果が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度収集した乳腺組織サンプルを用いて、乳腺における発生・分化過程および放射線照射による候補遺伝子の詳細な発現変動解析を実施する。また、遺伝子操作により、BRIP1遺伝子を始めとするDNA損傷修復遺伝子の発現を制御した乳腺細胞を作製し、それら細胞の三次元培養系を用いて、乳がんの前がん病変から観察されるような乳腺の組織構造の異常の発生や、放射線感受性の変化を検証する。その後、動物個体レベルにおける解析を行い、発生・分化および放射線感受性、さらには、発がんにおける候補遺伝子の関与を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、BRIP1遺伝子を始めとするDNA損傷候補遺伝子について、それらの発現を遺伝子操作により制御した乳腺細胞の作製を行い、乳腺細胞の三次元培養系および今年度収集した乳腺組織サンプル用いて、候補遺伝子やDNA損傷応答マーカーの検出および定量を行うことにより、乳腺の発生・分化過程における候補遺伝子の発現変動と放射線感受性の関連性を明らかにする。
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