研究課題/領域番号 |
23710076
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研究機関 | (財)電力中央研究所 |
研究代表者 |
前田 宗利 (財)電力中央研究所, 原子力技術研究所, 特別契約研究員 (20537055)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞質の放射線応答 / マイクロビーム / マイクロコロニー法 / 蛍光抗体法 / 修復関連タンパク質 / バイスタンダー応答 / 突然変異誘発頻度 |
研究概要 |
1. 細胞死を指標とした細胞質のみへの照射による影響の定量 マイクロビームで細胞質のみを照射したV79細胞を一定時間培養し、形成されたマイクロコロニーにおける細胞の分裂数を計数して細胞の生死を判別し、生存率を測定した。その結果、細胞質のみを照射した場合には、線量に対して直線的に細胞死が増大することを明らかにした。これまでの研究から、細胞全体を照射した場合には、わずかに低線量高感受性(細胞死が線量依存的に増大し、その後、線量の増加とともに回復する現象)を示すものの、全体として肩を持って線量の増加とともに生存率が減少するlinear quadratic (LQ)な生存率曲線を示すこと、また、細胞核のみを照射した場合には、低線量域で顕著な低線量高感受性を示し、高線量域では、細胞全体照射の場合の生存率曲線に近づいて行くことを明らかにしている。細胞質照射による生存率曲線が、肩を持たない直線的な線量応答を示す今回の結果は、DNA損傷性の応答ではなく、これまで知られていない放射線生物作用の標的が細胞質に存在することを示唆する。また、生存率の測定と並行して、バイスタンダー細胞の突然変異誘発頻度の測定も実施した。2. 細胞質への照射の有無による修復系への修飾の可視化解析 細胞質への照射は直接DNAに損傷を与える可能性は低いが、DNA修復を亢進させるなど細胞の放射線応答の修飾に関与していると考えられる。そこで、蛍光抗体法を用いてDNA損傷修復の比較的早期に作用するDNA損傷修復関連タンパク質の誘導、集積に細胞質への照射の有無が与える影響について可視化解析を実施した。これまでに、DNA二本鎖切断修復に関係する幾つかの修復タンパク質において、細胞質への照射がない場合には、同じ光子密度のX線で細胞全体を照射した場合には集積が誘導されるにも関わらず、タンパク質の集積が誘導されないことを確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、高効率の細胞局所照射手法を用いて、細胞質の放射線応答の分子機構を解析し、これまで考えらえてきたDNA損傷を起点とする情報伝達経路との相互作用を解明することである。平成23年度は、細胞死を指標に細胞質の放射線応答について線量依存性の解析を実施し、その後、蛍光抗体法を用いて細胞質照射の有無による修復関連タンパク質の挙動の可視化解析を開始する計画であった。これまでに、細胞質を照射した細胞の細胞死の線量依存性を測定し、線量応答がDNA損傷性の応答ではなく、これまでに知られていない放射線生物作用の標的が細胞質に存在する可能性を明らかにした。さらに、バイスタンダー細胞の突然変異誘発頻度の線量依存性の測定も実施し、これまで報告されていない興味深い線量応答を明らかにした(投稿中)。また、計画の通り、蛍光抗体法を用いた修復関連タンパク質の可視化解析を開始し、細胞質への照射の有無がタンパク質の挙動に関連することを確認している。以上のことから、本研究は、おおむね研究計画の通りに、順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、細胞質への照射の有無による修復系への修飾の可視化解析を実施する(平成23年度からの継続)と共に、高感度のリアルタイムPCRを利用した遺伝子発現解析であるリアルタイムRCRアレイ法を用いて、細胞質のみ、細胞核のみ、細胞質と細胞核を照射した場合について、それぞれ細胞内のシグナル伝達経路の解析を実施する。また、平成25年度には、同様の手法を用いて、細胞間シグナル伝達経路についても解析を実施し、細胞質への照射に起因する細胞の情報伝達およびこれまでに解明されている情報伝達経路との相互作用を明らかにして行く。次年度使用額が生じた状況:日本国内において出席の不可欠な予定が入ってしまったため、平成24年3月(平成23年度)に予定していた国際ワークショップへの出席を会期直前に取りやめた。このため、当該国外出張経費分の未使用額が発生した。この未使用額は、平成24年度に実施予定の国外出張費に充当する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画の通り、直接経費の大半は、プラスチック製実験器具等消耗品、細胞培養関連試薬、免疫染色(蛍光抗体法)関連試薬、PCRアレイ関連試薬などの購入に用いる予定である。次年度使用額および、直接経費の一部を用いて、研究成果の発表および研究関連情報の収集のため、国際会議への出張を予定している。
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