研究課題/領域番号 |
23710076
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研究機関 | (財)若狭湾エネルギー研究センター |
研究代表者 |
前田 宗利 (財)若狭湾エネルギー研究センター, 研究開発部, 研究員 (20537055)
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キーワード | 細胞質の放射線応答 / マイクロビーム / マイクロコロニー法 / 蛍光抗体法 / 修復関連タンパク質 / バイスタンダー応答 / 突然変異誘発頻度 / 一酸化窒素 |
研究概要 |
1. 細胞質のみへの照射による影響の定量および細胞間のシグナル伝達経路の解析 平成23年度に引き続いてバイスタンダー細胞における突然変異誘発頻度と細胞死の関係について定量的な解析を実施し、バイスタンダー細胞死が増大する線量域ではバイスタンダー細胞の突然変異誘発頻度がバイスタンダー細胞死の増大に応じて減少し、両者が有意水準5%で相関を持つことを明らかにした。更に、バイスタンダー細胞死を誘導する主要なシグナル伝達因子の一つである一酸化窒素(NO)に特異的なラジカルスカベンジャーであるCarboxy-PTIOを培養系に添加した場合、バイスタンダー細胞死の増大のみならず、バイスタンダー細胞における突然変異誘発の抑制も誘導されないことを明らかにした。これらの結果より、バイスタンダー細胞群中の不安定な細胞が、NOによるシグナル伝達を介して選択的に排除される可能性が明らかになった。(学術論文掲載確定) 2. 細胞質への照射の有無による修復系への修飾の解析 平成23年度に引き続き、細胞質への照射の有無によるDNA修復系への影響について蛍光抗体法を用いて可視化解析を実施した。DNA二本鎖切断(DSB)に対する修復応答の比較的初期に誘導されるヒストンH2AXのリン酸化(γH2AX)を指標として細胞質への照射の有無による影響を比較し、細胞核のみへ照射した場合には4 Gy以上で観察されたγH2AXのフォーカス形成が、細胞全体を照射した場合には1 Gyにおいても誘導されることを明らかにした。この結果は、細胞質へ放射線のエネルギーが与えられている場合には、より低線量域からDNA損傷修復応答が誘導されていることを示す。また、細胞質からの放射線応答は、DNA損傷の認識からγH2AX誘導までの間のDNA損傷修復応答の比較的上流に作用していることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、高効率の細胞局所照射手法を用いて、細胞質に由来する放射線応答の分子機構を解析し、これまで考えられてきたDNA損傷を起点とする情報伝達経路との相互作用を解明することである。平成23年度には、細胞死を指標とした細胞質の放射線応答の定量的な解析を通じて、DNA損傷に非依存的な細胞質由来の放射線応答が細胞死の誘導に影響を与えることを明らかにした。平成24年度には、平成23年度に引き続き、細胞質照射の有無による修復関連タンパンク質の挙動の可視化解析を実施し、細胞質からの放射線応答が、DNA損傷修復応答経路の比較的上流に作用していることを明らかにした。当初の研究計画では、平成24年度には、「細胞内のシグナル伝達経路の解明」を実施する予定であったが、研究を推進する中で、細胞核のみを照射された細胞の周辺に存在するバイスタンダー細胞における細胞死の誘導と突然変異の誘発との関係において、細胞間のシグナル伝達の観点から興味深い現象を見出したこと等を考慮し、平成25年度に実施予定であった、「細胞間のシグナル伝達経路の解明」を先行する事とした。その結果、一酸化窒素(NO)による細胞間の情報伝達が細胞死の誘導のみならず突然変異の誘発にも関与していることが明らかとなり、細胞質への照射の有無による細胞間の情報伝達においてもNOが重要な役割を果たしていることが明らかとなった(学術論文掲載確定)。当初計画していた「細胞内のシグナル伝達経路の解明」については、解析に必要な照射細胞の回収などを実施し、リアルタイムPCRを用いた解析は、主として平成25年度に実施することとした。 以上のことから、本研究は、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には、主として、高感度のリアルタイムPCRを利用した遺伝子発現解析であるリアルタイムPCRアレイ法を用いて、細胞質への照射の有無が照射された細胞内におけるシグナル伝達に与える影響についての解析を実施する。平成24年度までの研究成果を踏まえ、DNA損傷修復応答経路の上流について詳細な解析を実施し、細胞質への照射に起因する細胞の情報伝達およびこれまでに解明されている情報伝達経路との相互作用を明らかにして行く。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画の通り、直接経費の大半は、プラスチック製実験器具などの消耗品、細胞培養関連試薬、PCRおよびPCRアレイ関連試薬などの購入に用いる予定である。また、直接経費の一部を用いて、研究成果の発表および研究関連情報収集のための国際会議への出張や学術論文の出版に係わる経費などの支出を予定している。
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