研究概要 |
臭素系難燃剤(BFRs)の使用規制等に伴って代替難燃剤の需要が増大し、その生態系汚染が懸念されている。本研究は、海洋生態系に残留する既存のBFRsおよびハロゲン化・非ハロゲン化の代替難燃剤を測定し、その汚染実態と食物網を介した生物蓄積の特徴について解明することを目的とした。初年度は、(1)ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)を用いたハロゲン化代替難燃剤の分析法確立、および(2)超高圧高速液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いたリン酸エステル系難燃剤(PFRs)の分析法開発、について重点的に取り組み、それぞれ環境・生物試料に適用可能な分析法を確立した。最終年度は、マニラ湾(フィリピン)の魚介類などの試料を分析し、(3)炭素・窒素安定同位体比による食物網構造の解析、および、(4)ハロゲン化・非ハロゲン化難燃剤の生物濃縮特性の解明、に取り組んだ。その結果、ハロゲン化代替難燃剤については、イガイを用いたモニタリングからアジア地域では日本や韓国等工業国周辺環境で高値を示したものの、食物網を介した顕著な生物濃縮は観察されなかった。ただし、これらの物質は今後使用量増大が見込まれることから、継続したモニタリングが必要と考えられる。また、PFRsは、一部の魚種(yellow goatfish, silver sillago, tripletail wrasse, bumpnose trevally)で総PFRs濃度が高値(>1,000 ng/g lipid)を示し、とくにリン酸トリフェニル(TPhP)については栄養段階と濃度との間に正の相関が観察され、生物濃縮性が示唆された。この物質は米国で使用量の多いFM550の成分のひとつであり、米国の工業製品がフィリピンに輸入・使用されたことを反映したと考えられる。これらの成果は、国内外の学会および国際誌に公表した。
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