研究概要 |
自己免疫疾患は近年増加傾向にあり、環境化学物質への曝露の素因がある先進工業国で自己免疫疾患の有病率が高いことから、環境化学物質がその原因の一つとして指摘されている。自己免疫疾患には、Treg(自己免疫を抑制)やTh17(自己免疫を誘導)が中心的な役割を果たしており、各T細胞間の恒常性の破綻が自己免疫疾患の原因であると考えられている。最近、ダイオキシン受容体(AhR)がTregとTh17の分化のレギュレーターであることが示されたが、未だ自己免疫疾患発症の個人差を説明する因子の特定には至っておらず、疾患発症機構についてはほとんど分かっていない。そこで本研究では、ダイオキシン類による免疫系への機構的関与及び自己免疫疾患の感受性規定因子の解明を目的とし、世界で唯一の、多様な自己免疫疾患を発症し、環境化学物質に対する多様な感受性差が認められるモデルマウス(MRL/1pr・C3H/1pr・MXH/1pr系統)を対象に、TCDD曝露に対するTh17/Treg分化能の系統差を比較検証した。 実験系の確立後、まずTCDD曝露後のTh17/Treg分化バランスを検証した所、TCDDの推定される現実的な曝露濃度範囲において、自己免疫現象-特に血管炎を発症するMRL/1pr,MXH6/1prおよびMXH53/1prマウスでは、Th17/Treg分化バランスが崩れ上昇傾向を示すのに対し、発症しないC3H/1prおよびMXH54/1prマウスでは分化バランスが保持されることが初めて判明した。このことは、自己免疫疾患を発症し易い遺伝的背景をもつ個体では、環境因子によりさらにその発症度や重症度が悪化することを示唆している。さらに、自己免疫疾患の感受性規定因子の解明を最終目標に、近交系マウスの系統数を増やし、ダイオキシン暴露後のTregの誘導が、自己免疫現象の発現もしくはダイオキシンに対する感受性のいずれに依存しているのかを追求した所、必ずしも前者に依存するのではなく、後者に依存することが初めて明らかとなった。
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