研究概要 |
ナノマテリアルの気管内への投与により誘発されるマウス肺の突然変異を引き起こす要因として、酸化ストレスの関与が疑われる。また近年、ナノマテリアルの一種マグネタイト(MGT)を気管内投与されたマウスは、肺の突然変異誘発率が増加することがわかってきた。昨年までに、特定のDNA付加体をモニターするだけでなく、ナノマテリアルにより生成されるDNA付加体の全体像を把握し、酸化ストレス関連付加体の中でもどういった現象がより強くナノマテリアルにより誘発される遺伝毒性に関わっているかを明らかにするべく、液体クロマトグラフィー連結型質量分析計 (LC-MS) を用いたDNA付加体の網羅的解析法(DNAアダクトーム法)を確立した。MGTを投与したマウスの肺で遺伝毒性誘発に関与するDNA付加体の網羅解析をDNAアダクトーム法を用いて行った結果、脂質過酸化反応に由来するエテノ型DNA付加体の生成や、酸化DNA付加体の生成が観察された。 本研究最終年度となる本年度は、MGTに曝露されたマウス肺において、酸化ストレス関連DNA付加体の定量解析を行った。その結果、MGT投与群の肺において、8-オキソ-2’-デオキシグアノシン (8-oxo-dG) やヘプタノエテノ型DNA付加体などの酸化ストレス関連DNA付加体が、非投与群に比べて有意に増加していることがわかった(Totsuka et al, 2014, nanomaterials)。MGTはG:C→A:Tの突然変異を特に誘発することがわかっている。一方、ヘプタノエテノ型DNA付加体の一つであるHεdCはG:C→A:Tの突然変異を誘発する。このことからMGTの遺伝毒性には、酸化ストレス環境下において誘発される、脂質過酸化反応に起因するDNA付加体の生成が寄与している可能性が強く疑われた。
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