研究課題/領域番号 |
23710086
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
ディーター トゥールース 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (00598485)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | Community isotope array / 未培養微生物 / バイオレメディエーション / BTEX化合物 / 嫌気分解 |
研究概要 |
本研究では、有害化学物質を嫌気・好気条件おける分解に寄与する微生物を、Community Isotope Array, CIArrayと呼ぶ新規技術を用いて特定することを通じて、環境汚染対策に貢献することを大きな目的とする。今年度において、CIArray技術の開発に成功し、自然界の状況に近い状況で対象物質を生分解する微生物を特定することができた。より具体的には以下のとおりである。fosmid クローニングがCIArray用のプローブとして迅速かつ容易な方法であることを確認した。.また、40 kbpのfosmidクローンが、1 kbp shotgunクローンに比べおおよそ10倍高感度であることがわかった。このことより、より低濃度の基質で培養したり、より少数の微生物を検出したり、増殖収率の小さい菌を捉えることができるようになった。 そして実際にproof-of-conceptとして、CIArray を鉄鋼廃水の脱窒処理において、フェノール処理に関与している微生物の特定に適用した。96 個のfosmid clonesのなかで、海洋性のGammaproteobacteriaのみが主なフェノール分解細菌として特定された。それらは既知のフェノール分解微生物とは系統学的に遠いものであることが明らかとなった。このことより、未知微生物を探索するというCIArrayの強みがあきらかとなった。既往技術であるDNA-SIP法を用いて同一サンプルを解析し、比較したところ、特異性、感度ともにCIArrayが有利であるということがあきらかとなった。これまでのところ、CIArrayは複合微生物群集において基質と微生物種との関係を明らかにするのに有望であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の仕事が完了した: (1) CIArraysの標準的な作業手順書の確立、(2) CIArrayを用いた自然環境に近い状況での微生物群からの生分解微生物の特定、 (3) CIArrayの検出感度と特異性の検証。より具体的には、アレイの構築と応用(申請書中のTask 1.1)のためには、以下の手順を確立した:高分子高純度DNAの抽出、パルスフィールドゲル電気泳動によるDNAサイズの確認、fosmidクローニング、そしてアレイのスポッティングとハイブリダイゼーション。応用面については(Task 1.2)、CIArrayにより、無酸素条件下におけるgammaproteobacteriaの新規のフェノール分解菌をを、以下の手順で確認した:14C-標識フェノールを用いて培養したのちCIArray によるハイブリダイゼーションをおこない、放射線検出と検出されたプローブのシーケンス解析を行った。最後に、CIArrayの検出感度を検証するため (Task 1.3)、13C-標識フェノールを用いてCIArray と並行してDNA-SIPを行った。本研究でCIArrayは: i) 特異的であり、ii) SIPよりも検出感度が高い、ことがわかった。i) については、アレイ上で陽性と判断されたプローブはすべて、同位体標識された炭素を同化した微生物、おそらくはフェノールに直接由来する炭素を同化したものであった。当初は純菌を用いた評価を計画していたが、今年実際に行った手法のほうが感度と特異性の評価の点でより直接的であり、全体の能力を評価するのにより有益であって、すでに確立した技術であるSIP法と比較するのにすぐれていた。
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今後の研究の推進方策 |
2012年度においては、CIArrayをさらに開発し、きわめて嫌気的な環境においてベンゼンを分解する微生物の特定に用いる予定である。本研究で主な対象物質としているBTEX化合物の中でも、ベンゼンはもっとも毒性が高く、かつ嫌気では分解を受けにくい物質である。安定したベンゼン分解を行う集積培養系は、研究申請書に記載した通り、栗栖太准教授の協力により提供を受ける。CIArrayの感度と特異性を向上させるために、1細胞由来の全ゲノムをプローブとして用いる。とりわけ、この方法によれば、検出された細胞の全ゲノムの情報を利用可能であることから、微生物群集を研究するための現状のメタゲノムのツールに重要な要素を提供することができる。全ゲノムプローブを作成するために、蛍光セルソーティング(FACS)と、複数鎖置換増幅(MDA)を用いて、おおよそ100細胞から数マイクログラムのDNAを作り出す。プローブ、すなわち1細胞から増幅されたゲノム断片を得たのち、14C-標識ベンゼンを用い、昨年度確立した方法に基づいてCIArray解析を行う。続いて、16S rRNA遺伝子を含む様々な分類学的マーカー遺伝子の配列を獲得し、微生物の詳細な特定を行う。最後に、全ゲノムの中で、厳密な嫌気条件下でのベンゼン分解に関与しているとされている機能遺伝子を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度からの繰り越しを含めて、2012年度の予算は以下のように利用する:約70万円を、1細胞セルソーティングと全ゲノム増幅の委託(委託先:Single Cell Genomics Center at the Bigelow Laboratory for Ocean Sciences (East Boothbay, Maine, USA))に用いる。そのほかは、14C-標識ベンゼンや、消耗品、および成果報告として、国際会議14th International Symposium on Microbial Ecology, which will take place in Copenhagen, Denmarkで発表するために用いる。
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