本研究は糸状性微生物群の増殖制御方法を明らかにし、固液分離障害とリン・窒素(栄養塩)除去悪化を解消する廃水処理技術の研究基盤を確立することが目的であった。 糸状性微生物群の定量とその固液分離、栄養塩除去性能との関係の解明を目的として、昨年度までに都市下水処理施設4ヶ所を対象に、延べ30の反応槽から、夏と冬の2回にわたり活性汚泥のサンプルを採取した。17種類のDNAプローブを用いたFISH法により、固液分離の悪化している反応槽では、Chloroflexiに属する糸状性微生物が多く生息する傾向があると分かった。 しかしFISH法による糸状性微生物の観察において、TM7 に属す糸状性微生物を標的とした既存のDNAプローブが、誤ってChloroflexiに属する糸状性微生物も検出することが分かった。そこで本年度新規にcompetitorプローブを作製し、TM7とChloroflexiの糸状性微生物を区別したFISH観察を可能とした。 また本年度は下水処理施設において固液分離の悪化との関係がみられた上記のChloroflexiに属する糸状性微生物のDNA塩基配列情報を取得し、各種廃水処理施設における存在量を定量的に把握するreal-time PCRを行った。real-time PCRで測定したChloroflexiに属する糸状性微生物の遺伝子量と活性汚泥を採取したときの各下水処理施設の固液分離性能のデータ(sludge volume index)とを比較した結果、特に夏季において、両者に正の相関があると分かった。 以上の研究において、下水処理場における固液分離性能の悪化と関係のある糸状性微生物をChloroflexiの糸状性微生物に見出し、またその関係を定量的に把握するに至った。今後は同糸状性微生物群の代謝を調べて増殖制御方法を検討し、下水処理場の固液分離障害を解決していく必要がある。
|