研究課題/領域番号 |
23710090
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松宮 弘明 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 准教授 (10362287)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | チアカリックスアレーン / 複核金属錯体 / セリウム(IV) / アドミセル / 起泡分離 / イオン液体 / ヘテロポリ酸 |
研究概要 |
天然の酵素や微生物を環境浄化に利用する試みは数多いが、一般に生物分解は操作条件に敏感であり、また汚染物質との接触効率を高めることが難しく、長時間の処理を要するなどの問題点がある。本研究では、これらの諸問題をバイオ技術とは別のアプローチで解決することを考え、酵素様活性を示す新規有機ホスト無機複合体を調製し、これに水中の汚染物質を濃縮した後そのまま分解・低害化する高効率な環境浄化システムの構築を目指した。 有機ホスト分子チアカリックスアレーンは環状構造を有しており、天然の金属酵素の活性中心を再現するのに適した配位様式を取る。研究代表者は既にチアカリックスアレーンのセリウム(IV)ニ核錯体がフォスファターゼ様活性を示すことを見出しており、本年度は金属イオンのスクリーニングおよび配位性架橋基の化学修飾により、さらに高い活性を示す触媒ユニットを設計することを試みた。しかし、前述のセリウム(IV)ニ核錯体を上回る触媒活性を発現させることはできなかった。 一方、界面活性剤が固相担体に吸着するとアドミセルが形成される。カチオン界面活性剤とシリカゲルから成るアドミセルには水中の疎水性化合物が取り込まれ、さらに液下部から気泡を送り込むと液面上に迅速に浮上・回収された。塩濃度が増大すると浮上率は低下したが、アニオン界面活性剤を添加すると改善され、海水中の重金属元素を高効率に回収できた。また、チアカリックスアレーンのセリウム(IV)ニ核錯体をアドミセルに担持することも可能であった。 さらに、水中のリン酸やヒ酸をヘテロポリモリブデン酸に変換すると、イオン液体に捕集できることを見出した。ヘテロポリ酸化学種は種々の反応に対して触媒活性を示すので、有害物質の分解・低害化反応への適用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に予定していた項目は、1)チアカリックスアレーン複核金属錯体の触媒活性の向上、2)界面活性剤やイオン液体を用いる捕集媒体の調製、3)触媒ユニットと捕集媒体の複合化による浄化材料の設計と性能評価である。「研究実績の概要」で述べた通り、いくつか成果が得られている反面、触媒活性の向上については検討したものの結果的に達成できず、また、浄化材料の設計については着手したばかりである。一方、大量試料水からの起泡分離による高効率回収は平成25年度に予定していた検討項目であるが、先行して成果が得られている。従って、当初の計画以上に順調である点もあれば、進捗に一部遅れもある。この遅れの主な理由は、触媒活性の向上が予想以上に困難であったことである。結論としては、おおむね順調に進展していると言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
有機リン酸エステル系農薬などの有害物質を対象に、捕集能や分解能を評価する。さらに、草本系バイオマスを化成品やバイオ燃料へ変換する際に重要となるセルロースやリグニンの加水分解を検討し、再資源化プロセスへの適用可能性を探る。なお、分子間水素結合が遮断されるため、(リグノ)セルロースはイオン液体に良く溶けることが知られている。イオン液体は分解反応を行うには有利であるが、経済性の点に問題がある。一方、アルキルアンモニウム塩の共融混合物は類似構造をとり、室温付近の融点を示す。従って、セルロースやリグニンの加水分解は、これを安価な媒体として検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が発生した主な理由は、購入を検討していた融点測定装置の選定が年度内に終わらなかったためである。次年度は、この融点測定装置、また、消耗品(試薬、溶媒、ガラス器具、HPLCカラムなど)の購入、そして学会発表に関する旅費に科学研究費補助金を充てる。
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