研究課題
本研究では、農耕地土壌における適切な肥料および農薬施用のための土壌管理システムの構築を目標とし、土壌微生物を指標生物とした土壌環境モニタリング法の開発を行う。指標生物として、農耕地土壌などを含めた自然環境中に普遍的に存在する、アンモニア酸化微生物に着目した。特に茶園土壌などの強酸性環境下では分布量が高く、生物指標として適していると考えられる。まず、本大学近隣地域に散在する茶園から土壌を採取した。また茶園近傍の農地、大学敷地内の一般土壌を比較対象として採取した。これらを用い、pH、含水率、有機物量、塩素酸塩阻害法を用いた亜硝酸塩の比色定量によるアンモニア酸化活性(PNR: potential nitrification rate)の測定を行った。さらに、採取した土壌試料からDNA抽出を行い、アンモニア酸化微生物である、アンモニア酸化アーキア(AOA)とアンモニア酸化バクテリア(AOB)の各アンモニアモノオキシゲナーゼαサブユニット(amoA)遺伝子を標的としたプライマーセットを用い、定量PCR、T-RFLP解析、さらにクローンライブラリー解析を行った。採取した茶園土壌のpHは2.8から4.8であり酸性傾向にあった。PNRは0.24から0.83μg NO2--N dry soil g-1 h-1であり、茶園土壌中でアンモニア酸化が行われていることが示された。また、土壌pH、PNRともに採取地点による相違があったが、両者に相関関係は観られなかった。定量PCRの結果、強酸性茶園土壌ではAOBと比較してAOAが圧倒的に優占していることから、アンモニア酸化は、ほぼAOAによると示唆された。T-RFLP解析およびクローンライブラリー解析の結果、強酸性茶園土壌では一般土壌と比較して特異的な群集構造が形成されており、酸性環境に適応したAOAが特異的に生息していることが示された。
2: おおむね順調に進展している
土壌微生物を生物指標とした、実用的な土壌環境モニタリング法の開発を行うにあたり、当初は指標微生物として土壌微生物全般を対象とする予定であった。しかし土壌環境は、通常の自然環境と比較して、微生物多様性、特に細菌の多様性が非常に大きくなると考えられる。そのため、特定の系統群か特定機能に焦点を絞ることで、研究の方向性がより明確になり、得られる結果もより信頼性が高くなると期待した。今年度は前年度と同様に、硝化プロセスの中のアンモニア酸化能を持つ、アンモニア酸化アーキア(AOA)およびアンモニア酸化バクテリア(AOB)を標的とし、研究を行った。アンモニア酸化は、窒素化合物の地球規模の循環経路の一部で、農耕地土壌における施肥窒素の損失、窒素酸化物(NOX)による大気汚染および硝酸塩による地下水汚染の原因となっている。特に茶園では、アンモニア態窒素の多量施肥が慣行されており、硝化による土壌の強酸性化および硝酸塩による地下水汚染が深刻となっている。硝化の律速であるアンモニア酸化は、アンモニア酸化アーキア (AOA) とアンモニア酸化バクテリア (AOB) が行っている。これらは様々な土壌に分布しており、近年生態学的知見が蓄積されつつある。しかし、酸性土壌においては未だ不明な点が多い。そのため、本研究は土壌微生物学的見地から考察しても、非常に興味深いと考えられる。前年度は茶園土壌の物理化学的環境パラメータのうち、アンモニア酸化活性の測定法の条件検討で労力が必要であったが、測定条件を確立したため、今年度は実際の土壌試料を用いて測定行った。さらに今年度は、定量PCRやT-RFLP解析など試験項目を増やしたが、今年度からエフォートを20%に変更し、指標微生物の特定機能に焦点を絞ったので、短時間で効率よくデータ収集が可能であった。
本年度までは、環境指標微生物として特定の機能に着目し、アンモニア酸化微生物を標的とした研究を行った。次年度では、クローンライブラリー解析から存在が確認された、アンモニア酸化バクテリアおよびアンモニア酸化アーキアの純粋分離を試みる。一般的な知見として、土壌微生物の多くは分離培養が困難であるとされているため、新たな「電極基盤に微生物細胞を付着し剥離回収する方法」の使用を検討している。得られた分離菌株からITS-DNAをPCR増幅し、マイクロアレイのプローブDNAとする。また一方で、土壌環境評価の重要な指標となり得るAcidobacteria門細菌に関して、上述したアンモニア酸化バクテリアおよびアンモニア酸化アーキアと同様な研究を行う。Acidobacteria門細菌は自然環境中に普遍的に存在し、特に土壌環境では分布密度が高く、環境指標微生物として需要であると考えられる。特に本研究で対象とした酸性土壌では、場合によってAcidobacteria門細菌の分布量が過半数にも及ぶことが報告されている。しかしこれらの知見は単にDNAレベルの情報に基づくものであり、さらに研究を発展させるためには純粋分離菌株の獲得が必須である。近年の分離培養技術の発達に伴い、Acidobacteria門細菌の分離・培養に成功したとの報告は数例あるが、未だにその大部分は未知のままである。次年度の研究計画としては、アンモニア酸化バクテリアおよびアンモニア酸化アーキアの純粋分離、分離菌株からITS-DNAのPCR増幅を行う。同様に、Acidobacteria門細菌を標的とした微生物生態学的解析(PCR-DGGE、クローンライブラリー解析)、土壌の物理化学的パラメータ分析、純粋分離、分離菌株からITS-DNAのPCR増幅。以上より求めたITS-DNAのPCR増幅産物を用いて、DNAマイクロアレイを作成する。
今年度は、新たに開発された「電極基盤に微生物細胞を付着し剥離回収する方法」を使用し、アンモニア酸化バクテリアおよびアンモニア酸化アーキアの純粋分離を試みる。そのために、茶園土壌試料を用いて、微生物細胞を電極に付着・剥離するための緩衝液、電圧などの条件検討を行う。さらに電極から微生物細胞を回収して培養を行い、最も培養効率の高い培養条件を確立する。最終的には、既存の方法と比較して、本純粋分離培養法の有用性を数値データとして評価することを検討する。本方法を用いて純粋分離した多系統の分離菌株を用い、それぞれのゲノムのITS-DNA領域をPCR増幅し、増幅産物を用いてDNAマイクロアレイを作成する。さらに、土壌試料を用いてDNAマイクロアレイ解析を行い、既存の土壌微生物群集構造解析法との比較を行う。
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