研究課題/領域番号 |
23710094
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
佐々木 満 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (40363519)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / 非可食バイオマス / 水熱電解 / 多価カルボン酸 / セルロース / 環境軽負荷 / イオン液体 / 迅速加水分解 |
研究概要 |
今年度はまず、「非可食バイオマスの溶解・可溶化工程・加水分解工程の開発」に関して、セルロース系素材を出発原料とし、現有の撹拌槽型反応器(内容積0.5 L)および小型バッチ反応器(内容積5 mL)を用い、水中または水熱場へのイオン液体共存によるセルロース溶解の生起可否、およびそれを利用した迅速加水分解を試みた。操作因子として温度、基質濃度、水/イオン液体比および溶解時間を操作した実験を行い、迅速加水分解の可能性を調査した。その結果、水/イオン液体比が小さく、基質濃度が高い(例えば50wt%)ほどセルロースが良好に溶解することを見出した。しかしながら、温度依存性は確認できず、また高濃度セルロース溶液となるため高粘度となり撹拌効率に影響を及ぼすことが明らかになった。ただ、操作温度を2種類のみ、圧力を一定とした実験しか完了出来ていないため、次年度に様々な温度、圧力での検討をする必要がある。また、水熱場でのマイクロ波照射を利用したセルロース等の加水分解試験は実施できなかった。 次に、「高温高圧水中における生成物の分離・回収法の開発」に関して、バイオマス水熱処理工程において反応液中に存在する可能性の高い生成物群からジカルボン酸類を効率的に回収する手法を検討した。高圧流体場での相分離を利用した分離法では分離に関する圧力、温度操作が極めて複雑となり簡便に分離を実施するには課題があることを確認した。また、イオン交換樹脂を用いた分離法およびクロマト分離法などについて本系への適用可能性を検討した結果、いずれの方法も適用が可能であることを確認した。高圧下での相分離を利用した分離法についてプロセスシミュレータを用いた推算と分離実験結果を比較・検討したものの、目的化学物質を効率的に分離・濃縮可能な操作条件および分離装置の設計までには至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
セルロース溶解・迅速加水分解工程の開発において、幅広い温度および圧力において溶解試験を検討したかったが、実際には限られた種類の温度で一定圧力での検討しか実施できなかった。その理由は、高濃度セルロース溶液試験後の冷却時において使用した反応設備の配管における閉塞が頻発したことが主因である。毎実験後に長時間の装置解体および洗浄作業を行う必要が生じ、またそれらにより継手部品等の破損・劣化が生じたために、計画したスケジュールでの反応点数の取得ができなくなったためである。 水熱場でのマイクロ波照射を利用したセルロース等の加水分解試験については、前述のとおり、使用したマイクロ波照射反応装置には撹拌機能が付与されていないことに起因すると考えられる「実験データの再現性の低さ」につながった。そのため同一条件下で数回の実験を要してしまったが、それでも再現性が確保できず、多くの実験データ蓄積が叶わなかったためである。 分離工程の検討については、相分離実験の操作の複雑さからスムースな実験遂行ができず、実験データ取得ができるまで多くの時間を要したことが原因である。 以上の課題を今年度は解決しつつ、目標達成に近づけるべく鋭意努力したい。
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今後の研究の推進方策 |
まず、昨年度に実施できなかったセルロース系素材の迅速可溶化・加水分解の生起条件の策定を優先的に進める。キチン・キトサンを原料とした試験についても検討する。 次に、当初計画に記した「水熱電解法を用いたジカルボン酸類、アミノ酸類の選択合成技術の開発」について、セルロースおよび糖類の水熱分解/電解試験を種々の操作条件下で実施し、工業原料等として利用価値の高いジカルボン酸類の高収率生成を目指す。 また、キチン・キトサン系バイオマスの加水分解より得られるアセチルグルコサミンやグルコサミンの水熱分解/電解により生成するアミノ酸類を高収率で得る。これらの分子変換メカニズムを解明し、反応のモデル化を目指す。 そして最終的には、「非可食バイオマスからジカルボン酸等の連続合成プロセス製作のための基本設計」に関し、本研究で提案する高温・高圧水中でのバイオマス再資源化プロセスの各工程(溶解・可溶化工程、糖変換工程および分離・回収工程)で生起する現象または反応をモデル化する。また、バイオマスからジカルボン酸等への連続式高効率転換プロセスの基本設計を行いたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
高温・高圧下でのバイオマス原料の可溶化・加水分解、マイクロ波照射加水分解などの試験により得られる生成物水溶液の定性・定量分析に関して、外部機関への分析委託を計画している。これまで未同定であった生成物の構造決定を通じて、有用な生成物生産の可能性を見極めたい。 また、水熱電解法を利用して糖類の糖カルボン酸類への簡便な変換技術を創出するために、水熱条件下で電気化学反応を実施することができる反応セルの設計・試作を行う予定である。この装置製作により、従来では酸触媒等の過剰な添加物質を利用することなく、効率的に糖カルボン酸類を合成することを目指す。 その他、次年度に計画している消耗品や試薬、高圧継手類など研究活動に必要不可欠な物品購入に使用したい。これらの研究の結果、対外的に発表するための論文投稿や学会発表に必要な参加登録費、旅費、宿泊費といった費用として研究費を使用したいと考えている。
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