研究課題/領域番号 |
23710096
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
岡野 邦宏 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (30455927)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 有毒アオコ / microcystin / 八郎湖 / 分子生物学的手法 / 藍藻類 / 遺伝子 / 環境分析 / PCR |
研究概要 |
秋田県八郎湖は、その富栄養化の進行とアオコの発生などから平成19年12月より湖沼法の指定を受け、その水質改善対策が急務となっている。アオコを形成するMicrocystis属などはmicrocystinという極めて強力な毒素を産生することから、その発生は八郎湖汚濁における県民および近隣住民の最大の懸念となっている。また、湖水が農業用水に使用されていることや流入河川の末端付近に上水施設があることを鑑みてもその改善は焦眉の課題といえる。 そこで、本年度は「八郎湖で発生するアオコは初期段階(6月~7月上旬)では無毒性であることから無毒性藍藻がアオコ発生のキーになっている」との独創的な着想に基づき、分子生物学的手法を用いて有毒アオコおよび無毒アオコを簡易かつ簡便に定量できる技術の検討を行った。また、八郎湖の全域調査における湖水試料を用いて16S rRNA遺伝子領域をターゲットしてクローンライブラリー法による多様性解析を行うとともにアオコ毒microcystinなどの分析を行った。 有毒アオコおよび無毒アオコの定量において、操作が簡便である競合PCR(Competitive PCR)とDNA濃度を高精度かつ高感度で分析できるDNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装置を組合せた手法について検討を行ったが、定量PCRと同等の検量線が得られた。また、全域調査における水質分析の結果、Chl.a濃度とmicrocystin濃度に相関がない地点が多数確認された。Microcystis属は、前述の通り同じ種であっても有毒な株や無毒な株が存在するため、本現象はMicrocystis属の種・株レベルでの多様性に起因していることが推察された。この推察は、遺伝子解析の結果においても支持された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において有毒・無毒アオコの動態解析、つまり定量化は極めて重要な位置づけにある。既往の研究においてもアオコ形成藻類の代表種であるMicrocysrtis属の有毒株の割合について定量PCRを用いて検討した例があるが、Microcystis属以外のアオコ形成藻類を考慮していないことや、定量PCRを用いているため操作が煩雑かつランニングコストかかることなどの問題があった。そこで、操作が簡便である競合PCRとDNA濃度を高精度かつ高感度で分析できるDNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装置を組合せた新規な動態解析技術の検討を行い、概ね順調な結果を得た。しかしながら、様々な影響が考えられる環境サンプルには適用できていないため、来年度はさらなる検討が必要であると考える。 一方、八郎湖の全域調査で得られた湖水試料のmicrocystin分析および遺伝子解析の結果、八郎湖全域でアオコが発生していることが明らかになるとともに地点によってもアオコ形成藻類の有毒性と無毒性が異なることが推察された。この結果は、無毒性藍藻がアオコ発生と関係があるという本研究の着想を支持するものである。来年度は定期サンプリングを行うことで、連続的なデータの補完を行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、競合PCRとDNA濃度を高精度かつ高感度で分析できるDNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装置を組合せた新規な動態解析技術を用いて環境サンプルの定量を進める。また、本手法の正確性を確認するため、環境サンプルにおける定量PCRとの比較も並行して行う。なお、定量PCRについては平成23年度のSYBR Green法から、より特異性の高いTaqManプローブ法に変更して行う。 一方、分子生物学的手法を用いた遺伝子多様性解析も平成23年度に引き続き行うが、特にmcy遺伝子の多様性と検出されるmicrocystinの種類(LR, YR, RR)の関係に着目して研究を進める。研究代表者のこれまでの研究でmcy遺伝子群の一部とmicrocystinの量や種類には関係があることが分かっており、本研究の成果はアオコ発生機構の解明のみならず、アオコ毒microcystinのリスク予測などその研究的意義は極めて大きい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究ではアオコ形成藻類の動態解析および遺伝子多様性解析に際して、PCRやクローンライブラリー構築など分子生物学的手法が極めて重要な部分を占めている。また、電気泳動用チップ(200千円)は本研究のコア技術である競合PCRの定量化に用いるDNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装置の消耗品であり、研究遂行上必要不可欠であるため購入予定である。さらに、平成23年度は純粋培養したMicrocystis属をDNAサンプルとして用いたため、対照とした定量PCRもSYBR Green法を用いて行った。しかしながら、平成24年度は環境サンプルを対象とするため、より特異性の高いTaqManプローブ法を用いる必要がある。そのため、TaqManプローブ(120千円)やその専用試薬(80千円)についても購入予定である。 一方、本応募研究のもう1つのコア技術としてアオコ毒microcystinなどの分析に用いるHPLC(高速液体クロマトグラフ)がある。HPLC消耗品やmicroystin標準品はHPLC分析に必須であるため計上する。
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