研究課題/領域番号 |
23710106
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
粕谷 素洋 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (00582040)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 表面力装置 / 共振ずり測定 / 閉じ込め液体 / 光化学反応 / ツインパス法 / 蛍光寿命 / ピレン |
研究概要 |
本研究の目的は,閉じ込め液体における表面間距離をナノメートルオーダーで制御しながら蛍光寿命・スペクトルを測定できる表面力-蛍光同時測定装置を用いて,閉じ込め液体中の光化学反応挙動を評価し,さらに表面力・共振ずり測定によって評価した閉じ込めによる溶液の構造化や粘性と反応挙動との相関を明らかにし,閉じ込め液体中における化学反応制御の指針を得ることである. 本年度は本研究で用いる予定のアントラセン等の色素が強い吸収を示す波長266nmの紫外パルスレーザーを本予算で購入し,紫外用の光学部品を組合せて,紫外励起が可能な光化学反応用表面力装置を設計・製作した. また閉じ込め液体中における化学反応特性の理解を目的として,ヘキサデカン中において典型的な2分子反応であるピレンのエキシマー形成・消滅反応のダイナミクスを,表面力-蛍光複合測定装置を用いた寿命測定により観測した.結果として,雲母表面間に閉じ込められたヘキサデカン溶液中におけるピレンエキシマーの生成反応のダイナミクスが,80 ps以内とバルクよりかなり速くなることを明らかにした.また消滅反応についてもバルクより一桁程度速い数 ns程度で起こることを確かめた.さらに蛍光測定に用いたピレンのヘキサデカン溶液の共振ずり測定において,ヘキサデカンのみの場合と比べて構造化が長距離で起こることから,ピレンが表面近傍に濃縮されて構造化を誘起していると考えた.このピレンの濃縮によりダイマーが形成されて,ピレンエキシマーの反応速度が速くなる原因となると考えられる.以上の結果のように,本研究では閉じ込め環境における液体の構造化が光化学反応に与える影響を明らかにすることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,閉じ込め液体における表面間距離をナノメートルオーダーで制御しながら蛍光寿命・スペクトルを測定できる表面力-蛍光同時測定装置を用いて,閉じ込め液体中の光化学反応挙動を評価し,さらに表面力・共振ずり測定によって評価した閉じ込めによる溶液の構造化や粘性と反応挙動との相関を明らかにし,閉じ込め液体中における化学反応制御の指針を得ることである. 本年度は,光化学反応用表面力装置の構築と,閉じ込め液体中で典型的な光化学反応を観測して閉じ込め液体中の化学反応場としての特性を評価することが当初の計画であった. 装置の構築については,光化学反応に用いることができる多くの色素が強い吸収を示す波長266nmの紫外パルスレーザーを本予算で購入し,紫外用の光学部品を組合せて,紫外励起が可能な光化学反応用表面力装置を設計・製作した. また閉じ込め液体の化学反応場としての特性評価については,ピレンエキシマーの形成・消滅反応のダイナミクスを閉じ込め環境で観測し,バルク中より反応が速く起こることを明らかにした.さらに共振ずり測定の結果から,閉じ込め環境における色素の濃縮がダイナミクスの変化の原因であることを確かめた. 以上のように,当初の計画通りに研究を進められたことから,「(2) おおむね順調に進展している。」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
最終生成物が得られる典型的な光化学反応であるアントラセン類縁体のダイマー化反応について,閉じ込め環境下における光化学反応挙動を発光測定から明らかにする.本年度に得られた閉じ込め液体の光化学反応場としての特性に関する知見を元に,観測される生成ダイナミクスや反応収率等から,閉じ込め空間の化学反応挙動への影響を明らかにする.また,得られた閉じ込め環境における色素溶液の濃縮・会合・構造化と光化学反応挙動の相関に関する知見を元に,適切な他の光化学系を選択し,閉じ込め環境において反応挙動を評価する.特に,結晶相における光重合やフォトクロミック反応のような連鎖的な反応が誘起される系について重点的に研究を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
光化学反応に用いる多種の色素を使用予定であるために試薬の予算を多めに計上している.また,装置の改良のため,光学部品を計上している.その他の消耗品,成果発表のための旅費,論文投稿費用等については,これまでの実績に基づいて積算している.
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