本研究の目的は,量子力学に基づく第一原理計算により,ナノ構造物に存在する界面近傍での応力分布を明らかにすることにある.本研究最終年度である当該年度の計画では,半導体異材界面の応力分布の高精度評価手法の確立とその異材界面原子モデルへの適用を目的とした.得られた知見・成果を以下に記述する. 1. 応力密度3次元積分法の確立 本研究では,第一原理計算によって得られた場の関数である応力密度をある部分領域で体積分して局所応力を評価する.部分領域としては,Bader球と呼ばれる一つの原子を含む閉領域を設定した.昨年度の研究では,妥当な応力分布を得るには高精度なBader積分法を用いる必要があることを明らかにした.本年度はYu-Trinkleアルゴリズムに基づく重み付きBader積分プログラムを作成し,その精度をNaCl結晶,H2O分子,積層欠陥・表面等の原子系で検討した.その結果,系の対称性を満たす形で応力分布が得られ,本手法の応力密度積分に対する有効性が示された. 2. 半導体超格子近傍の応力分布評価法の確立 半導体界面応力分布を明らかにするため,上述の3次元応力分布計算法を各種の半導体界面モデルに適用した.GaAs/AlAs,GaN/AlNの(111),(100)等の複数の界面に対して計算を行った.その結果,界面近傍数原子層に及ぶ応力の広がりが明らかになった.また,界面応力の面方位依存性は,sp3ボンドの配向と界面の幾何学的関係に由来することが示唆された. 研究期間を通じて得られた結果により,半導体界面の局所的な応力状態の第一原理計算手法が確立され,その界面応力分布が明らかとなった.得られた局所応力と局所的な原子構造との比較を通じて,界面応力の物理的背景を詳細に議論できる.本手法を更に大規模な原子系に適用することにより,ステップを含む界面での応力集中等が議論可能になると考えられる.
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