研究課題/領域番号 |
23710110
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
宮川 勇人 香川大学, 工学部, 准教授 (00380197)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 磁性半導体 / 干渉露光法 / 磁性多層膜 / 電流駆動磁壁異動 / 放射光磁性解析 |
研究概要 |
本研究の目的は、紫外光レーザーを用いた干渉露光法と高真空蒸着法とを用い、Z方向(面直)にはナノサイズの磁性多層周期構造を有し、XY方向(面内)にはライン・ドット・ラティス(格子)などの周期アレイ構造をセンチメートル・オーダーの広域にパタン形成した磁性多層膜パタンド周期アレイ構造を作製した後、磁気・光・電気の融合特性にナノ構造の特殊性が及ぼす効果を検証し、アレイに流す電流によってマクロなスピン特性ならびに円偏光発光特性を制御することである。初年度は、良質な結晶性を有する磁性半導体試料の作製ならびに干渉露光法によるパタニングの最適化を主目的とした研究展開を行った。試料作製には、紫外光を用いた干渉露光リソグラフィー法と、分子線エピタキシー(MBE)法もしくはスパッタ法などの薄膜蒸着法を用い、磁性元素としてガドリニウム(Gd)と鉄(Fe)を使用した。特に磁性半導体においてはGd蒸着量をセル温度で変化させることで濃度調整を行い、絶対的な濃度を光電子分光測定により測定することに成功した。構造評価を電子顕微鏡(TEM、SEM)ならびにX線構造解析により行い、Gd濃度が数%と低い試料やGaAs非磁性層を折り込んだ磁性多層構造によって良質な結晶成長を行った。磁化測定結果では、磁性元素濃度と室温強磁化とが単調増加を示さず、ある濃度において磁化の極大を見出した。また一方で、フォト・ルミネッセンスによる発光特性の評価からは、発光強度のばらつきが結晶性を大きく反映していることがわかった。エネルギーバンド内にGdドープに起因するいくつかのバンド間準位に基づく発光が観測された。一方で、半導体上にパタニング磁性膜を形成後、非加熱方式で酸素被膜を除去するべくイオンミリングのシステムの導入を行い、イオンビームの確認、Siにおけるミリングテストを行い、原子間力顕微鏡により平坦製の良好なミリング状態を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標は、(1)良質な結晶性を有する磁性半導体試料の作製ならびに(2)干渉露光法によるパタニングの最適化であった。また(3)作製試料の磁気特性、光電気特性などの基礎物性の評価を行い、さらに次年度に向けて(4)イオンミリング装置の導入とミリングテストを行った。(1)紫外光を用いた干渉露光リソグラフィー法では、平行性の高い良好なライン周期パターンを10平方ミリ以上の広範囲のエリアに短時間で形成することに成功した。(2)分子線エピタキシー(MBE)法や高真空薄膜蒸着法によってFeやGdを磁性元素として混入させた磁性半導体結晶の作製を行い、Gdセル温度として1250~1350℃において最も良好な結晶性が得られることを見出した。光電子分光分析によって通常評価の難しい磁性半導体内の磁性元素濃度の定量評価に成功した。(3)磁化測定結果より、磁性元素濃度と室温強磁化とが単調増加を示さず、ある濃度において磁化が極大を示すことがわかった。一方で、フォト・ルミネッセンスによる発光特性の評価からは、発光強度のばらつきが結晶性を大きく反映していることがわかり、エネルギーバンド内にGdドープに起因するいくつかのバンド間準位に基づく発光が確認した。また磁性ラインパタン試料については磁区観察を行い、磁場に対する磁壁の挙動を確認することができた。(4)非加熱方式で表面被膜を除去するためのイオンミリング・システムの導入を行った。イオンビームの発生を確認し、Siのミリングテストによって平坦製の良好なミリングが可能であることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、(1)より複雑な周期パタン構造をイオンミリングと干渉露光を組み合わせることで行い、(2)電気によるスピン操作を試行する。(3)周期パタンの間隙における半導体結晶成長により埋め込みストラクチャーの作製を試みる。また(4)放射光を用いた原子レベルの精細な測定を行い、(5)成果をまとめ発表する。(1)既に成功したライン周期構造に加え、格子(ラティス)やドットのパタニングを行う。まずはイオンミリング条件の最適化を行った後、90度角度をずらした2回の干渉性パタニングによりナノ格子(ラティス)やドットを作製する。磁区観察により磁壁の挙動を観察する。(2)ラインの交差位置に流れる電流を操作することでスピンホール効果と電流誘起の磁区移動の実験を行う。集束オンビーム(FIB)や電子ビーム(EB)等のリソグラフィーによる単一素子形成による実験も行い比較する。(3)パタニング作製したラインパタンの空隙においてマトリクス半導体のバルク結晶成長を行い、埋め込み周期ストラクチャーの作製を試みる。原子半径の違いから結晶成長は困難であるが、部分的な緩和領域の比率を制御し、半導体内部に埋め込まれた形の3Dパタンド周期アレイの作製を行う。作製後、内部のライン交差点にて電気特性と発光を制御するスピン光素子を作製し特性評価する。(4) 放射光X線による磁気吸収実験を作製試料について行う。元素選択的かつ電子軌道選択的な磁気吸収(磁気円二色性:MCD)と光電子分光の実験を行い、各磁性元素のスピン配列の様子や電子軌道の偏極状態を調べる。(5) 実験結果の解析・総括、対外発表実験結果をまとめ、学会(応用物理学会、Magnetic Materials Magnetism2012)での発表ならびに学術論文(Journal of Applied Physicsを予定)による対外発表を行う。また研究室HPにて結果の概要を公開する。
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次年度の研究費の使用計画 |
[1] 初年度においては貸与使用していたイオンミリングガン(80万円)を正式導入する。既にミリングテストを終えておりミリングを確認済みである。正式導入した後、ミリング条件の最適化を行い、実際の作製に使用する。[2] GaAs基板、Gd, Fe母合金(10万円)の原料費として使用する。初年度に用意した基板および母合金の補充を行う。[3] 液体窒素購入費(10万)として使用する。1回の結晶成長に150リットル(1万円)必要であるため、10回の成長に当てる。[4] 放射光実験費として研究代表者と学生2名の旅費(10万)として使用する。[5] 研究発表費として学会参加費ならびに旅費(10万)論文発表費(10万)として使用する。
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