研究課題/領域番号 |
23710113
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岡林 則夫 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 特任助教 (90387853)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 非弾性電子トンネル分光 / 走査トンネル顕微鏡 / アルカンチオール自己組織化単分子膜 / 元素分析 |
研究概要 |
本研究は、"非弾性電子トンネル分光(Inelastic Electron Tunneling Spectroscopy: IETS)による三次元元素イメージング"の確立を目的とする。IETSは、電子が分子をトンネルする際に、分子の振動モードを励起する過程であり、IETSを詳細に観測することにより、対象分子の元素分析が期待できる。平成23年度は、下記の四項目に関して研究を実施した。(1)超高真空中でのアルゴンガス・スパッタリングとシリコン通電加熱によるアニーリングを組み合わせた手法によりAu(111)清浄表面を作製する方法を確立した。Au(111)清浄表面に典型的な、ヘリングボーン構造が恒常的に確認できており、これにより短鎖のアルカンチオール分子の自己組織化単分子膜が作製できるようになる。(2)非常に微少なIET信号を検出するために、ノイズに対して強いロックインアンプと微少電流アンプを用いた、信号検出システムを構築した。今後ローパスフィルターを加えることにより、IETS信号マッピングが可能になる。(3)本研究は、走査トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope)を用いて、表面上の分子のIETS過程を調べることを最終目的とするが、STMと比べて実際のデバイスとしての応用が期待されるナノデバイス系においても、非弾性トンネル過程が発現することを見出し、その物理過程を詳細に調べた。(4)これまでに報告してきたアルカンチオール単分子膜に対するIETSの研究成果をレビュー論文としてまとめ投稿した(現在、査読中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究がおおむね順調に進展しているのは、信号強度の小さな非弾性トンネル信号を検出する測定システムを構築できたからである。また、三次元元素分析を行うためには、金属表面上の短鎖のアルカンチオール単分子膜が理想的な試料となるが、その作製に必須のAu(111)清浄表面の作製法を確立できたことも理由としてあげられる。更に、ナノメートルサイズの金属電極ギャップを利用したナノデバイス系においても、非弾性トンネル過程が発現することを見い出し、その物理過程に関する知見を深めることができたことも、研究が進展した点としてあげられる。研究成果発表に関しても、アルカンチオール単分子膜に対するSTM-IETSの実験結果を再検討し、密度汎関数法と非平衡グリーン関数を組み合わせた理論を用い、物理過程に関する解釈を深め、レビュー論文としてまとめており、順調にすすんでいる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度から金沢大学理工研究域に助教として移動するので、使える装置が変更するという事情から研究推進方法を変更した。当該年度は、試料作製と信号検出機構の構築に専念することとし、IETSに必須なSTMヘッド部分に関しては、次年度研究を実施する研究室の装置に合わせて、改良の程度を検討することとした。特に、試料を4 K程度の極低温まで冷やすことができるか否かは、研究の成否を左右する重要なパラメータになるので、もちいる装置の特性を十分把握した後に、どのような改良を行うか決定する。本研究は、超高真空中で短鎖の自己組織化膜を作製することが重要となり、実際、当該年度は、そのような試料の作製法を確立した。今後用いる装置は、超高真空中で試料を作製するという点に関して十分な装備が整っており、当該年度で得たノウハウをそのまま継続して適応することが可能である。従って、次年度は、非弾性電子トンネル分光が行えるようなSTMヘッド部分の改良に注力し、実際のデータ測定およびそれを利用した三次元元素分析へとつなげていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度からの所属機関変更に伴い、研究計画を変更した。当該年度は、試料作製と信号検出機構の構築に専念し、走査トンネル顕微鏡ヘッド部分の改良は、次年度使用する装置に合わせて行う事とした。具体的には、使用する装置の特性に合わせてSTMのヘッド部分を改良し、実際にIETSを行えるようにする。高精度にIETSを行うには、(1)極低温まで試料を冷やせるようにすること、および(2)低ノイズ環境でSTMを操作できるようにすることが重要である。(1)に関しては、ヘッド部分を小型化し熱容量を小さくする、極低温部との熱リンクを十分とれるようにする、高温部と熱的に十分絶縁させること等が必要な要素になる。さらに低温における測定時間を長くするためには、極低温部分(液体ヘリウムだめ)の体積を大きくすることが必要である。(2)の低ノイズ化に関しては、探針とピエゾ部分を小型化し、共振周波数を高くすることが有効である。以上にあげた高精度のIETSを行うために必要な要素を満たすように、ピエゾを購入し、探針部分を作製し、探針や試料を超高真空中で取り換えられるようなシステムを構築し、極低温部分と有効に熱リンクする機構を作製するために研究費を使う。実際に装置をくみ上げた後は、IETS測定に必須の液体ヘリウムを購入するために研究費を使う。
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