本年度は、東京工業大学から金沢大学への研究拠点の移動にともない、使用する極低温超高真空対応走査型トンネル顕微鏡が変わったので、顕微鏡のヘッド部分および超高真空システムを、本研究がおこなえるように改良した。ヘッドの改良においては、トンネリングスペクトロスコピーにおけるトンネル電流の低ノイズ化、ヘッド部分の冷却効率の向上という二点に留意した。また、本年度使用した装置でも、昨年度使用した装置同様、超高真空中での清浄表面の作製ができるよう、アルゴンガススパッタリングと傍熱型ヒーターによるアニーリングを組み合わせた手法を組み込んだ。このようにして作製した金清浄表面をアルカンチオール溶液に浸漬させるという試料作製方法と、走査トンネル顕微鏡ヘッドの低ノイズ化改良により、アルカンチオール自己組織化単分子膜を再現性よく作製および観測できるようになった。ただし、本研究で必要となるアルカンチオール単分子膜に対する高分解能非弾性電子トンネル分光を行うためには、顕微鏡ヘッド部分の冷却効率の更なる向上が課題として残った。このような装置改良と並行して、既に計測してきた非弾性電子トンネル分光に対するデータに対する解釈を深めるため、補足となる赤外分光のデータを同一試料にたいして計測し、赤外分光と非弾性電子トンネル分光の差異を明らかにした。追加データを含めた実験結果と、非平衡グリーン関数と密度汎関数法を用いた理論的研究をもとに、これまでに報告してきた非弾性トンネル分光に関する研究を、他の研究グループの結果や他の手法による分光の結果と比較するという視点から総説としてまとめ、Progress in Surface Scienceにおいて報告した。
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