研究課題/領域番号 |
23710118
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 健太郎 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90583550)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | グラフェン / 共鳴ラマン分光 |
研究概要 |
佐藤健太郎は積層構造がねじれた二層グラフェンのGバンド強度における励起光エネルギーとねじれ角の関係を計算から示した。積層構造がねじれた二層グラフェンは、そのねじれ角によって電子の速度が変化するなどといった、基礎・応用研究の両面から見て興味深い性質を持つことが知られている。そのため、ねじれ角を知ることが積層構造がねじれた二層グラフェンの物性を調べるために重要である。 共鳴ラマン分光では、ねじれ角と励起光エネルギーによって、積層構造がねじれた二層グラフェンのGバンド強度が増強されることが知られている。したがって積層構造がねじれた二層グラフェンのGバンド強度における励起光エネルギーとねじれ角の関係から、ねじれ角を推定するための情報が得られると期待される。 佐藤健太郎は、強束縛法を利用し、電子光子行列要素と電子格子行列要素を求め、積層構造がねじれた二層グラフェンのGバンド強度を計算するプログラムを作成し、Gバンド強度の計算をおこなった。計算結果から、あるねじれ角における積層構造がねじれた二層グラフェンのGバンド強度と励起光エネルギーの関係を導出し、またGバンド強度が最も増強される励起光エネルギーを示した。 また佐藤健太郎は三層グラフェンのMバンド強度、ラマンシフト、励起光エネルギーと積層構造の関係を強束縛法を利用して計算するプログラムを作成し、計算をおこなった。計算結果と実験との比較から、Mバンドの強度とラマンシフトから三層グラフェンにおけるABA積層とABC積層を見分けられることを、齋藤理一郎、Chunxiao Cong、Ting Yuらと共に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は「多層グラフェンにおける共鳴ラマン強度とラマンシフト(G'バンドやMバンドなど)の励起光エネルギー依存性、また多層グラフェンの層数との関係」と「欠陥に起因する共鳴ラマンピーク(Dバンドなど)の共鳴ラマン強度とラマンシフトの励起光エネルギー依存性、多層グラフェンの層数、また欠陥との関係」を明らかにすることである。 平成23年度における研究実地計画では「定式化と強束縛法によるプログラムの作成」と「多層グラフェンのMバンドなどにおける励起光エネルギーと層数の関係の導出」が計画されていた。 佐藤健太郎は、研究実地計画に基づき、三層グラフェンのMバンド強度、ラマンシフト、励起光エネルギーと積層構造の関係を強束縛法を使用して計算するためのプログラムを作成した。また佐藤健太郎は三層グラフェンのMバンド強度とラマンシフトから、三層グラフェンがABA積層かABC積層かを見分けられることを、計算結果と実験の比較から、齋藤理一郎、Chunxiao Cong、Ting Yuらと共に示した。 さらに佐藤健太郎は、一種の欠陥だとも考えられる積層構造がねじれた二層グラフェンのGバンド強度における励起光エネルギーとねじれ角の関係を計算強束縛法を使用して計算するためのプログラムを作成し、あるねじれ角におけるGバンド強度と励起光エネルギーとの関係を示した。 本研究の目的、実地計画と平成23年度における研究成果を照らし合わせると、これまでの研究成果は本研究の実地計画におおむね基づいており、また本研究の目的を達成するために必要である。したがって、本研究の現在までの達成度はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の目的である「多層グラフェンにおける共鳴ラマン強度とラマンシフト(G'バンドやMバンドなど)の励起光エネルギー依存性、また多層グラフェンの層数との関係を明らかにする」と「欠陥に起因する共鳴ラマンピーク(Dバンドなど)の共鳴ラマン強度とラマンシフトの励起光エネルギー依存性、多層グラフェンの層数、また欠陥との関係を明らかにする」を達成するために、今後の研究は次のように推進する予定である。 平成24年度は、多層グラフェンのG'バンドなどの共鳴ラマン強度や、ねじれた二層グラフェンにおける共鳴ラマン強度を計算するために、平成23年度に開発した多層グラフェンの共鳴ラマン強度を計算するプログラムを改良する。また作成したプログラムを使用して、共鳴ラマンピークのラマン強度と励起光と積層構造の関係を導出する。実験との比較から多層グラフェンの共鳴ラマン強度の特性を明らかにする。 平成25年度は、欠陥による電子の散乱をあらわす行列要素を計算するプログラムを作成する。平成24年度に開発した多層グラフェンの共鳴ラマン強度を計算するプログラムと組み合わせて、欠陥に起因する共鳴ラマン強度を計算するプログラムを作成する。数値計算結果と実験との比較をおこないながら、プログラムの修正をおこなう。 平成26年度は、平成25年度に得られた成果をもとにして、数値計算から多層グラフェンのDバンドにおける励起光と層数の関係を導出する。実験との比較から共鳴ラマン強度の特性を明らかにする。 なお国内外の研究グループが理論または実験における重要な研究成果を発表した場合や、本研究の進捗状況によっては、本研究を滞りなく進めるために研究実地計画の順番を変更する場合もある。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費:共鳴ラマン強度を求めるためには、電子光子行列要素と電子格子行列要素を可能な全ての組み合わせについて計算しなければならない。共鳴ラマン強度、励起光エネルギー、ラマンシフトと多層グラフェンの積層構造の間の関係を明らかにするためには、励起光エネルギーなどの初期条件を数多く変更して計算する必要がある。積層構造がねじれた二層グラフェンなどの共鳴ラマン強度の計算には、実験値と比較できる有用な数値計算結果を得るために数十ギガバイトのオーダーのメモリが必要とされる。そのため、本研究課題を素早く推進し、かつこれまで出来なかった数値計算を可能にするためには、数十ギガバイトのオーダーのメモリを搭載した並列計算機を導入するための研究費が必要である。この数値計算機は平成24年度以降の本研究課題においても数値計算のために使われる。また、計算結果を図にするためのソフトウェアや、本研究課題を推進するための参考図書を購入するための研究費が必要である。旅費:グラフェンなどの炭素物質の研究進展はとても速く、昨年度だけでもグラフェンに関する論文は5600本以上も出版されており、国内外でも会議やシンポジウムは多数開催されている。最新の研究情報を取得するため、また国内外の研究者に本研究課題の研究成果を広めるためには、論文発表に加えて国内外の会議やシンポジウムで積極的に研究成果を発表し、さらに国外の研究グループとの共同研究をおこなうことが重要である。そのため、国内外の会議やシンポジウムで研究成果を発表し、また共同研究をおこなうための旅費が必要である。その他:旅費で述べた会議に参加するために会議参加費が必要である。
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