研究課題/領域番号 |
23710122
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
澤田 敏樹 東京大学, 駒場オープンラボラトリー, 助教 (20581078)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 生体関連高分子化学 / 生物有機化学 / バイオテクノロジー |
研究概要 |
繊維状ウイルスを構成要素とするハイドロゲル構築を目的とし、ウイルス(ファージ)と金ナノ粒子によるハイブリッド化を検討した。ファージと金ナノ粒子とを相互作用させるため、ファージの末端に機能性基としてタグペプチド(抗原ペプチド)を遺伝子工学的に導入した。一方金ナノ粒子には抗タグペプチド抗体を固定化し、ファージ末端と特異的に相互作用できる分子設計とした。それらウイルスおよびナノ粒子を適切な濃度下において混合することにより、ハイドロゲル化することがわかった。抗体やナノ粒子を加えない山椒実験ではゲル化する挙動は見られず、特異的な相互作用を基に両者が自己組織化し、ゲル化へと至ったものと考えられる。動的粘弾性測定の結果、いずれの周波数においても貯蔵弾性率の値が損失弾性率の値を上回ったことから、明確にハイドロゲル形成したことがわかった。 構築したハイドロゲルの特性をより詳細に解析した。吸収スペクトル測定から、ハイドロゲル中の金ナノ粒子は分散状態と凝集状態とが同時に存在するスペクトルを示したことから、ナノ粒子は一次元的に配列したことが示唆された。透過型電子顕微鏡観察の結果、金ナノ粒子は互いに密接にパッキングしていることがわかった。ナノ粒子上の抗体がファージ末端の抗原ペプチドによって架橋されているものと推察される。 ファージハイドロゲルの強度を定量的に評価した結果、ゲルの強度はファージ末端のペプチドとナノ粒子上の抗体との相互作用の強さに依存した。つまり、ファージ末端とナノ粒子との分子レベルの相互作用がゲルの強度というマクロな物性にまで影響を及ぼすことを見出した。以上の結果から、ウイルスをベースとした新規なハイドロゲル創製を達成することができ、また相互作用の制御によって物性を制御できる可能性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ウイルスによるハイドロゲル創製を目指して種々の手法を検討した結果、煩雑な手法を伴わない手法によるハイドロゲル創製を達成した。さらに、構築したハイドロゲルの強度は相互作用という概念で制御することができ、また、ただ構築できたのみならず金ナノ粒子という極めて魅力的な特性をもつ構成要素とのハイブリッドにより達成できた。これにより、ウイルスと金ナノ粒子双方の特性を併せもつ、ハイドロゲルに代表されるソフトマテリアルの構築が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
構築したハイドロゲルをより詳細に特性解析することをまずは目標とする。ファージはウイルスであるため、宿主である大腸菌への感染により簡便に増幅することができる。この特性を利用し、まずは低濃度のファージ溶液および金ナノ粒子を含むゾルに大腸菌を添加し、ファージの増殖に伴う物性の変化を検討する。これにより、自己進化的に構造特性を変化させるハイドロゲルの制御が期待される。 一方で系の単純化を目指し、ファージとナノ粒子とが直接相互作用できる分子設計を施す。ファージに金結合ペプチドを提示させることで、ナノ粒子と他の分子を介さず直接相互作用できる。これにより、より簡便なファージハイドロゲルの構築が期待される。 さらに、ファージに機能性基を修飾することにより、機能性ハイドロゲル構築も目指す。ファージ表面には合成化学的あるいは遺伝子工学的に任意の官能基や分子を導入できる。これにより、望みの機能を自在に付与できるウイルスハイドロゲル構築が期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
新たなペプチドを提示したファージを遺伝子工学的に調製する。金ナノ粒子のサイズや濃度がハイドロゲルに与える影響を検討するため、種々のナノ粒子を用いる。 機能性をもつファージの調製を目的とし、遺伝子光学的に単一あるいは複数の機能性ペプチドを提示したファージの調製を行う。また、合成化学的にもファージ表面の修飾を検討する。これらにより、任意の機能をもつファージからなる機能性ハイドロゲルの構築を目指す。
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