既に構築している、繊維状ウイルスの一種であるM13ファージと金ナノ粒子からなるハイドロゲルの新たな機能を探索した。ファージ末端にタグペプチド(抗原ペプチド)を提示したファージを用い、金ナノ粒子にはプロテインAを介して抗体を固定化して用いた。ハイドロゲルの機能評価として、自己修復能を検討した。押込み破断試験により構築したハイドロゲルを破断させて強度を測定し、破断されたゲルに対して緩衝液を添加した。2日間静置することで、破断箇所は目視では完全に修復されることがわかった。再度強度を測定した結果、オリジナルの90%程度まで強度が回復することがわかった。 ここまでで用いてきたハイドロゲルは、ファージ、金ナノ粒子以外にも、抗体とそれを固定化するためのプロテインAの2種のタンパク質を利用した多成分系であった。ハイドロゲルを利用することを考えると、より少ない成分から構築されることが望ましい。そこで、ファージ末端と金ナノ粒子が直接相互作用できるよう新たに分子設計し、ハイドロゲル構築を目指した。金に結合するペプチドをファージ末端に、遺伝子工学的に導入した。金に結合するファージと金ナノ粒子を混合した結果、粘稠な液体となり、そのままではゲル化には至らなかったが、吸収スペクトル測定から金ナノ粒子が特殊な集合構造を形成することがわかった。この溶液を架橋剤であるグルタルアルデヒド溶液に対してインジェクションすることで、ハイドロゲル形成することがわかった。ハイドロゲルを偏光顕微鏡で観察した結果、複屈折性を示し、ファージが配向して液晶構造を形成することがわかった。金ナノ粒子を加えない場合やA3ペプチドをもたない野生型ファージを用いた場合では液晶形成は見られず、金ナノ粒子が規則的に集合化することで、ファージも架橋により配向されることが明らかとなり、それぞれの集合構造が制御されたハイドロゲルが構築できた。
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