研究課題/領域番号 |
23710126
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
二宮 啓 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (10402976)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 帯電液滴 / エレクトロスプレー / 深さ方向分析 / 質量分析 |
研究概要 |
本研究ではエレクトロスプレーにより発生させた帯電液滴ビームをイオン化とエッチングのための両方のプローブとして用いることにより、従来では困難であったナノメートルレベルの高い深さ方向分解能で有機試料を分析する手法を開発することを目的としている。これまでの帯電液滴ビームはその発生源に大気圧でのエレクトロスプレーを利用しており、発生した帯電液滴のほとんどが真空中に導入される前に大気中分子との衝突によって損失してしまうため、ソース輝度が低いという問題があった。またターゲットへの照射位置でのビーム径もミリメートルオーダーと大きかったため、表面分析用プローブとしては不十分であった。そこで平成23年度はビームソース部のエレクトロスプレーを大気圧下から真空下にすることにより、ビーム輝度を向上させるための装置構築を実施した。真空下におけるエレクトロスプレーについては、低真空に由来する放電開始電圧低下と蒸発冷却による液体の固化という問題のため、特に水などの揮発性液体を真空下でスプレーすることは極めて困難であったが、真空ポンプなどの排気系の改善による放電問題の解消および波長と強度を最適化させたレーザをスプレー用エミッタ先端にピンポイントで照射することによる液体状態維持により、真空下でも安定にエレクトロスプレーできることを証明した。またエレクトロスプレー電流の印加電圧依存性やスプレー形状の観測などを行うことにより、真空下でのエレクトロスプレーの特性について明らかにした。一方その帯電液滴衝撃によってイオン化された試料を質量分離する分析部については、構造が比較的単純である線形の飛行時間型質量分析計や真空状態を維持したまま試料交換できるロードロックシステムを独自に設計し、その構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高い深さ方向分解能を有する質量分析システムを構築するためには、プローブ側と分析部側の両方を構築していかなければならない。プローブ側についてはソース部のエレクトロスプレーを大気圧下から真空下にすることにより、帯電液滴ビームの輝度を大幅に向上できることを証明した。また分析部側については真空下での試料交換システムと線形の飛行時間型質量分析部を独自に設計して、その組立までをほぼ完了している。以上のことからプローブ側でも分析部側でも六割以上の実験セットアップが構築できており、ほぼ当初の計画通りの研究開発を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的であるナノメートルレベルの深さ方向分解能で有機試料の質量分析を実現するためには、帯電液滴衝撃によるイオン化条件とエッチング条件がともに最適化されなければならない。具体的には、効率的なイオン化と試料に損傷や表面荒れを残さないエッチングが両立する条件を定性的に明らかにし、ナノメートルオーダの深さ方向分解能が実現できるパラメータを決定していく。今後は真空下でのエレクトロスプレーを利用した帯電液滴イオン源と質量分析部を完成させ、実用に近い試料で深さ方向分析の性能試験を行い、ナノメートルオーダの高い深さ方向分解能を実現するシステムを完成させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
高輝度な帯電液滴ビーム源と質量分析部の装置完成のため、線形の飛行時間型分析計に必要な物品やシステム構築のための電気部品の購入を計画している。また本研究開発で構築した深さ方向分析システムの性能試験を行うため、複数の実用に近い試料の購入を計画している。
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