本研究ではエレクトロスプレーにより発生させた帯電液滴ビームをイオン化とエッチングのための両方のプローブとして用いることにより、従来では困難であったナノメートルレベルの高い深さ方向分解能で有機試料を分析する手法を開発することを目的としている。最初にビームの輸送効率を上げることにより、ビーム輝度を向上させるための装置改良を行った。また帯電液滴ビームによりイオン化された試料を質量分離する分析部については、構造が比較的単純である線形の飛行時間型質量分析計や真空状態を維持したまま試料交換できるロードロックシステムを独自に設計しその構築を行った。一方ビームソースの輝度そのものを向上させる技術として真空下でのエレクトロスプレー発生技術の開発を進めた。真空エレクトロスプレーを利用するソース部を設計し、従来型の大気圧下でのエレクトロスプレーを利用するものよりソース部の重量や体積を大幅に小さくすることに成功した。またエレクトロスプレー電流の印加電圧依存性やスプレー形状の観測などを行うことにより、真空エレクトロスプレーの特性についても明らかにした。さらには帯電液滴ビーム源を設置している質量分析装置用に深さ方向分析の自動測定プログラムや深さ方向分析データの解析用プログラムを作成した。これらの装置開発を進めた上で、ポリマーや酸化物などの実用的な薄膜試料について、帯電液滴ビームをエッチングビームとして用いる深さ方向分析を行った。実際の測定例としてはSi基板上にSi酸化膜を9ナノメートル程度成長させた試料において深さ方向分析を行ったところ、Si酸化膜とSi基板の二層がきれいに分離され、そのときの深さ方向分解能としては5ナノメートル以下であった。またポリスチレンなどのポリマー試料を基板上にスピンコートした薄膜試料でも同様の結果が得られた。
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