研究課題/領域番号 |
23710130
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研究機関 | 佐世保工業高等専門学校 |
研究代表者 |
田中 泰彦 佐世保工業高等専門学校, 物質工学科, 講師 (10512692)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 単層カーボンナノチューブ / 電気化学 / 分光電気化学 / 酸化還元電位 |
研究概要 |
本研究は,単層カーボンナノチューブ(CNT)の個々の種類(カイラリティ)の基本物性の一つである酸化・還元電位を実験的に正確に把握し,CNTの酸化還元電位を望む電位に設定可能であること実証することを目的とし,個々のカイラリティの酸化還元電位,および可溶化剤の種類,溶媒効果などによるCNT周辺環境が関与する電位シフトを一覧化した「CNT電位準位のライブラリ」を実験的に構築することを目指す。 これまで,孤立分散させた単層CNTを酸化インジウムスズ(ITO)透明電極上に修飾し,その修飾電極を用いたその場発光(PL)分光電気化学測定により求めた電極電位に応答したPL強度変化をネルンスト式で回帰分析し,各カイラリティの電子準位を実験的に求めてきた。しかし,この手法では一度孤立分散させた単層CNTをフィルムにし,尚且つそのフィルムが電解質水溶液中で溶解しないように固定化する必要があった。そこで,孤立分散させた単層CNTをそのまま,すなわち溶液の状態で測定する手法の構築を行った。単層CNT孤立分散水溶液が薄層になるようにITO透明電極と光学セル壁面に溶液を挟み込み,電解セルを組み,単層CNT孤立分散水溶液のその場分光電気化学測定を行った。電極電位の変化に伴う単層CNTのPL強度変化を,電極電位に対してプロットした。このプロットに対して,ネルンスト式を用いた回帰分析を行い,その回帰曲線の変曲点を,単層CNTの酸化還元として求めた。今回の結果から,構築した薄層溶液の電気化学測定により,溶液中の単層CNTの酸化還元電位を実験的に求められることが明らかにできた。 韓国のYoung Hee Leeグループの研究(共著)で,本研究により実験的に求められた電位準位ライブラリから分かる単層CNTの酸化還元電位を用いた考察を行った(J. Phys. Chem. C 2012, 116, 5444)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者の所属が変わったため,計画していた実験を行うために用いる測定装置(近赤外発光分光装置)を,前任機関に借用しに行かねばならなくなった。装置を借用にするための出張と担当授業の代替を行う必要があり,頻度良く測定に出向くことができなかった。そのため,様々な条件で測定を行い,実験的データを元にライブラリを作成するため網羅的に測定データをとる実験がやや遅れている。現在所属している機関の既存の測定装置(近赤外吸収分光装置)で実験を行えるように,当初の計画内容の一部を切り替えて実験を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの計画案では,単層CNTからの発光を調べることにより,それぞれの種類の酸化還元電位を明らかにしてきた。今年度は近赤外発光分光装置を使わず,近赤外吸収分光装置を用いたえられる吸収応答でも同様の測定系が構築できるかどうかを調べる。そして,近赤外吸収分光測定により得られる吸収強度変化から,様々な種類の単層CNTの酸化還元電位を網羅的に調査し,単層CNTの酸化還元電位の「電位準位ライブラリ」の構築を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
所属変更先で実験計画を遂行するにあたり,必要になった測定装置群を,当初予定を変更して物品費として購入しようとしたが,必要装置群の一部が製造中断状態になったため,購入することができず,643,035円を次年度使用とした。購入する予定をたてていた装置(XYレコーダ約60万(30万×2台))の代替品としてデータロガー約60万(30万×2台)を購入する。 分光電気化学測定には,作用極として酸化インジウムスズ(ITO)膜で被覆された透明電極を用いる。使い切りで測定するため消耗品として電極材料費が必要である(消耗品費)。様々の種類の単層カーボンナノチューブを網羅的にしらべるため,単層カーボンナノチューブ(試薬)購入費が必要である。(消耗品費)分光電気化学測定には,電解質水溶液,測定セル(ガラス器具)が必要である。(消耗品費)
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