研究概要 |
本研究は,単層カーボンナノチューブ(CNT)の個々の種類(カイラリティ)の基本物性の一つである酸化・還元電位を実験的に正確に把握し,CNTの酸化還元電位を望む電位に設定可能であること実証することを目的とし,個々のカイラリティの酸化還元電位,および可溶化剤の種類,溶媒効果などによるCNT周辺環境が関与する電位シフトを一覧化した「CNT電位準位のライブラリ」を実験的に構築することを目指した。これまでに(平成23年度),孤立分散させた単層CNT水溶液を分光セル中に薄層状態で保持する工夫を行い,この単層CNT薄層溶液の分光電気化学測定を行うことにより,単層CNTの酸化還元電位を求められることを報告した。 当該年度では,この単層CNTの酸化還元電位をCNTからの発光過程の変化から求めていたが,より一般的な測定装置である吸収分光装置を用いても求められないかを検討した。吸収分光装置から得られる応答は,単層CNTの複数のカイラリティの応答を含むため応答が重なり,帰属が困難であった。そこで本研究では含まれるカリラリティの少ない単層CNT,コバルト-モリブデン触媒を用いて合成した単層CNT(通称CoMoCat-CNT)を用いて,単層CNTを修飾した酸化インジウムスズ(ITO)透明電極上のその場吸収分光電気化学測定を行った。カイラリティ(6,5)およびカイラリティ(7,5)を多く含む単層CNTの酸化還元電位を実験的に求め,吸光度変化から求めたカイラリティの混在により酸化還元電位のシフトがあることを明らかにした。以上の結果から,吸収分光電気化学ではバンドル化した単層CNTと孤立分散した単層CNTの平均的な酸化還元電位を求めることができ,発光分光電気化学では孤立分散した単層CNTのみの酸化還元電位を求めることができることを明らかにした。
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