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2011 年度 実施状況報告書

ナノスケール秩序構造に着目した炭素のアモルファス・粒界構造の解明

研究課題

研究課題/領域番号 23710135
研究機関核融合科学研究所

研究代表者

伊藤 篤史  核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (10581051)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2015-03-31
キーワードアモルファス / 炭素 / 分子動力学 / シミュレーション / ナノ材料 / 堆積 / グラファイト / ダイヤモンド
研究概要

炭素材料を中心に、これまで難しいとされてきたアモルファス構造の分類を行うため、分子動力学(MD)シミュレーションを用いた研究を行う。プロジェクト発足となる本年は、手始めにChemical Vapor Deposition(CVD)を模擬した堆積によるアモルファスカーボンの形成をMDによってシミュレートし、その堆積生成物について調べた。具体的には、アモルファス炭素でできた基盤の上に、炭素原子を連続的に入射して表面における堆積過程を解析する。ここで炭素原子の入射エネルギーを変化させることで、堆積物中のsp2とsp3炭素の量の比が変わる。このとき100eVから200eV程度の入射エネルギーでsp3の比率がピークになることが解った。これは実験による報告とも一致する。しかしながら、MDではピークでもsp3の比率が20%程度に留まるという問題も露呈した。これに対して実験では80%を超えるものもある。この原因を詳細に調べたところ、MDシミュレーションで用いていたREBOポテンシャルに問題があることが解った。Brennerによって提案されたREBOポテンシャルは、ナノ炭素のMD研究において最もよく使われているモデルだが、今回の研究からsp3リッチな炭素構造では現実の再現性が悪いことが解った。これを解決すべく、全く新しいタイプのポテンシャルを開発した。年度末に完成したばかりではあるが、これによって堆積物のsp3比率は改善することができた。さらに副産物として、高圧状況下におけるグラファイトからダイヤモンドへの転移現象も、MDによるものでは初めて実験に相当する15GPaでの転移を再現することができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

申請時当初の研究計画では、最初の二年間で様々な環境でのアモルファス炭素形成のシミュレーションを行い、できた構造と形成過程との関連を分析することになっている。また同時に、当初からREBOポテンシャルの精度の悪さが問題を引き起こすと予想しており、さらに将来的な不純物の扱いなども想定して、H24年度中にはポテンシャルの開発に取り組む予定であった。しかし、先に述べた様に実際には年度を前倒しした形でポテンシャル開発を行った。一番のポイントは、ダウンフォールディングと呼ばれる方法を導入することでかなりスムーズに炭素系ポテンシャルの完成に至った点である。また、これまで主流であったボンドオーダー型のモデルとせず、仮想的な電子分布を考慮した、より自然な理解に基づくモデルとすることで、アモルファスの様な準安定構造に対してもよいエネルギーの一致が得られるものとなった。さらにボンドオーダー型では困難であった元素の種類を増やす拡張に関しても、比較的簡単に実現できるモデルとなっている。この様に、最も時間がかかると予想していたポテンシャルの作成が非常にスムーズに行っていることからも、今後の順調な進行が見込まれる。

今後の研究の推進方策

本年度に開発した新しいポテンシャルモデルを用いて、炭素堆積物の構造に及ぼす形成過程の影響を詳細に解析する。また、堆積物以外のアモルファス炭素の形成にも取り組み、プロセッシングや、高圧環境など、様々な条件でのアモルファス炭素の構造を比較することで、アモルファス構造の分類を進める。また同時に、ポテンシャルモデルのさらなる改良を行い、水素原子やその他の元素を扱えるように拡張する。これは、メタンガスやアセチレンガスなどの炭化水素をソースとしたプラズマCVDの実験をMDシミュレーションで解析する際に、必須になる課題である。新しく開発したポテンシャルモデルでは元素の拡張が比較的簡単になるように設計されているので、うまくいけば、今後の共有結合系のMDシミュレーションにおけるグローバススタンダードなモデルになる可能性がある。また、ポテンシャルを開発する際に利用したダウンフォールディング法の実行には、密度汎関数法を基礎にした量子化学計算の使用が不可欠であったが、本年度においてその技術を習得した。これを生かして、アモルファス構造と電子構造の関連も調べることができないか、検討を進める。

次年度の研究費の使用計画

MDシミュレーションを行うために今年度(初年度)購入予定だったワースクステーションは、タイでの洪水の影響やCPUメーカーの開発遅延による発売延期など、部品が供給されずに購入を見送らざるを得なかった。このための購入予算は基金化されたメリットを生かし、次年度へと繰り越した。次年度には、できるだけ早期にワークステーションを購入する予定である。このワークステーションを利用して、MDシミュレーションだけでなく、ダウンフォールディング法のための量子化学計算や大規模並列化MDコードの開発・ベンチマークなども進める。また、プラズマ・物質相互作用の国際会議「PSI」などに参加して、ポテンシャル作りの発表を行うために6日間の海外渡航を行う予定である。

  • 研究成果

    (17件)

すべて 2012 2011 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (15件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Molecular Dynamics Simulation of Chemical Vapor Deposition of Amorphous Carbon: Dependence on H/C Ratio of Source Gas2011

    • 著者名/発表者名
      Atsushi M. Ito, Arimichi Takayama, Seiki Saito, Noriyasu Ohno, Shin Kajita, and Hiroaki Nakamura
    • 雑誌名

      Japanese Journal of Applied Physics

      巻: 50 ページ: 01AB01

    • DOI

      10.1143/JJAP.50.01AB01

    • 査読あり
  • [学会発表] Formation and Classification of Amorphous Carbon by Molecular Dynamics Simulation2012

    • 著者名/発表者名
      Atsushi M. Ito, Arimichi Takayama, Seiki Saito, and Hiroaki Nakamura
    • 学会等名
      4th International Symposium on Advanced Plasma Science and its Applications for Nitrides and Nanomaterials (ISPlasma2012)(招待講演)
    • 発表場所
      Chubu University, Aichi, Japan
    • 年月日
      March 4-8, 2012
  • [学会発表] Affine Coupling Method and Downfoling Method for Molecular Dynamics2012

    • 著者名/発表者名
      Atsushi M. Ito, Hisashi Okumura, Yoshihide Yoshimoto, Arimichi Takayama, and Hiroaki Nakamura
    • 学会等名
      1st International Workshop on Computer Simulations of Thermally Excited Molecules and Materials by First Principles
    • 発表場所
      Nagoya University, Aichi, Japan
    • 年月日
      March 10-11, 2012
  • [学会発表] ダウンフォールディング法を用いたタングステン‐希ガス系のポテンシャルモデル作成2012

    • 著者名/発表者名
      伊藤篤史, 吉本芳英, 中村浩章
    • 学会等名
      日本物理学会第67回年次大会
    • 発表場所
      大阪
    • 年月日
      2012年3月
  • [学会発表] 分子動力学におけるアフィン結合法とダウンフォールディング法2012

    • 著者名/発表者名
      伊藤篤史
    • 学会等名
      自然科学研究機構「自然科学における階層と全体」シンポジウム(招待講演)
    • 発表場所
      名古屋
    • 年月日
      2012年2月
  • [学会発表] 星間空間でのPAH形成の分子動力学シミュレーション2012

    • 著者名/発表者名
      伊藤篤史
    • 学会等名
      ALMAワークショップ「宇宙と生命」
    • 発表場所
      三鷹
    • 年月日
      2012年1月
  • [学会発表] Time Development of Agglomeration Process on Carbon Dusts in Hydrocarbon Plasma2011

    • 著者名/発表者名
      A. M. Ito, M. Nishiura, T. Koizumi, H. Nakamura, N, Ashikawa, T. Kenmotsu, and M. Wada
    • 学会等名
      21st International Toki Conference
    • 発表場所
      Toki, Gifu, Japan
    • 年月日
      November 28 - December 1, 2011
  • [学会発表] Molecular Dynamics Simulation Approach to Plasma-Wall Interaction2011

    • 著者名/発表者名
      A. M. Ito, S. Saito, A. Takayama, S. Yonemura, H. Nakamura
    • 学会等名
      Plasma Conference 2011
    • 発表場所
      Kanazawa, Ishikawa, Japan.
    • 年月日
      November 22-25, 2011
  • [学会発表] Modeling of Potential with Downfolding method2011

    • 著者名/発表者名
      A. M. Ito
    • 学会等名
      IAEA Technical Meeting on "Ab Initio-Based Methods for Plasma-Material Interaction in Fusion Devices"
    • 発表場所
      Vienna, Austria
    • 年月日
      December 14-15, 2011
  • [学会発表] Binary Collision Approximation and Molecular Dynamics Hybrid Simulation2011

    • 著者名/発表者名
      A. M. Ito
    • 学会等名
      IAEA Technical Meeting on "Improving the Database for Physical and Chemical Sputtering"
    • 発表場所
      Vienna, Austria
    • 年月日
      December 12-13, 2011
  • [学会発表] 周期境界条件下での局所応力変形を介した階層連結分子動力学手法2011

    • 著者名/発表者名
      伊藤篤史, 奥村久士, 高山有道,斉藤誠紀,中村浩章
    • 学会等名
      日本物理学会2011年秋季大会
    • 発表場所
      富山
    • 年月日
      2011年9月
  • [学会発表] Affine結合法と階層連結分子動力学シミュレーション2011

    • 著者名/発表者名
      伊藤篤史, 奥村久士, 高山有道, 斎藤誠紀, 中村浩章
    • 学会等名
      第2回計算統計物理学研究会
    • 発表場所
      金沢
    • 年月日
      2011年9月
  • [学会発表] ダウンフォールディング法による核融合材料用のポテンシャルモデル作成2011

    • 著者名/発表者名
      伊藤篤史, 吉本芳英, 高山有道, 斎藤誠紀, 中村浩章
    • 学会等名
      第25回分子シミュレーション討論会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2011年12月
  • [学会発表] アフィン結合法による分子動力学シミュレーション2011

    • 著者名/発表者名
      伊藤篤史
    • 学会等名
      非線形&マルチスケール勉強会
    • 発表場所
      福岡
    • 年月日
      2011年12月
  • [学会発表] 分子シミュレーションによるこれからのプラズマ壁相互作用研究2011

    • 著者名/発表者名
      伊藤篤史
    • 学会等名
      科研特定領域「核融合トリチウム」若手交流研究会
    • 発表場所
      福岡
    • 年月日
      2011年12月
  • [学会発表] アフィン結合法による多階層分子動力学シミュレーション2011

    • 著者名/発表者名
      伊藤篤史, 奥村久士, 斎藤誠紀, 高山有道, 中村浩章
    • 学会等名
      第24回計算力学講演会
    • 発表場所
      岡山
    • 年月日
      2011年10月
  • [備考]

    • URL

      http://www-fps.nifs.ac.jp/ito/

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公開日: 2013-07-10  

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