研究課題/領域番号 |
23710135
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
伊藤 篤史 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (10581051)
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キーワード | アモルファス炭素 / 炭素 / ナノ物質 / ナノ材料 / シミュレーション / 密度汎関数法 / DFT |
研究概要 |
本プロジェクトの目的は、アモルファス炭素のナノスケールの構造に着目し、様々な種類が存在するアモルファス炭素の特性をミクロな視点から理論・シミュレーションによって解明することである。その結果として新しい分類法の提唱や、新たな機能を持つアモルファス炭素構造の提案などを目的とする。同時にそれらを可能にする理論・シミュレーション技術の開発とそのナノカーボン研究分野・プラズマ応用ナノサイエンス分野への普及に努めている。 H25年度にはダイヤモンドライクカーボン(DLC)の構造分類の指標と、具体的な物性値の関連を調べた。計算手法として密度汎関数理論(DFT)に基づいた計算コードOpenMXを利用した。水素フリーのアモルファス炭素の分類はこれまでにsp2/sp3比による分類が一般的に用いられてきたが、今回の計算によりこれに代わる指標として全炭素原子数に対するsp3状態の炭素原子数(sp3原子の数密度)がより直接的に物性値に結びついていることを示すことができた。具体的に、sp3原子の数密度と密度・体積弾性率・ヤング率の関係を水素フリーアモルファス炭素についてプロットすると全てに線形関係があり、さらに、結晶性のダイヤモンドまでその近似直線上に乗ることが分かった。線形関係に関しては過去の実験データとも整合性があることが確認された。 本結果は第26回プラズマ材料科学シンポジウム(SPSM26)にて発表し、査読付き論文集に受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DFTを用いたシミュレーションの導入が軌道に乗り、アモルファス炭素の物性を系統的に調べることが可能になった。これによって具体的な物性値の評価が可能となり、実験との比較がより具体的に可能となった。実際に水素フリーのアモルファス炭素では上記の弾性率に関する解析が進み、実験ともよく一致し、手法としての信頼性の高いものが得られた。これを用いることで、最終年度に向けて水素や不純物を含んだより一般的なアモルファス炭素の研究が可能となった。 また、最終年度に向けた分子動力学(MD)法のコード整備も順調に進み、1億原子レベルのMDシミュレーションが可能なコードが完成しつつある。これら二つの手法を使い分けることで、アモルファス炭素の大規模な秩序構造からミクロな局所構造までの総合的シミュレーション研究が可能となってきた。最終年度へ向けて、順調に手法が整備できた。 また、計算手法の応用として、窒素内包フラーレンの形成に関する計算研究を開始することができ、これに関しても学会発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる次年度では、次の二点に取り組み、アモルファス炭素の構造分類に基づいた科学的理解の達成に努める。 (1)水素・不純物を含んだアモルファス炭素のミクロ構造と物性値の関係を調べる。主にDFT計算を用いて、100原子から200原子程度の規模のアモルファス炭素を系統的に計算する。これまで分類の指標として慣例的に用いられてきた水素含有量や不純物含有量以外に、より科学的に有用な分類指標の提唱や、水素・不純物のミクロ構造の物性値への影響を調べる。 (2)アモルファス炭素の秩序構造の存在について解明を行う。MD計算を用いて大規模粒子によるアモルファス炭素構造を作成し、長距離空間に及ぶ秩序構造の存在を調べる。ただし、ここでの長距離および大規模とは、1nmスケールに比べて長距離の意で、コンピュータリソースによる上限から、せいぜい1μm規模である。しかしながら、顕微鏡とは直接的に比較できる規模の計算となる。この研究を通して、実験でのアモルファス作成に対するより良い条件提示をすることを目標とする。 また、これらの成果は、H26年9月に行われる国際会議17th International Congress on Plasma Physics (ICPP 2014, Instituto Superior Técnico (IST) Lisboa, Portugal)を始め四件の招待講演(採択済み)として発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は直接経費として約94万円の支出を行った。これは研究計画当初の本年度分配分額に相当する額であり、当初の計画通りの支出を行った。次年度への繰り越し分は、一昨年度からの繰り越し分とほぼ同額に当たる。 次年度繰越が必要となった大きな理由は、本研究の成果発表として、次年度に4つの招待講演(うち国際会議3つ、国内会議1つ)を受けたために、出張旅費が想定以上に必要となったため。 上に述べた四件の招待講演のうち、国内会議一回分と国際会議二回分の旅費に充てる予定である。ただし、為替レート・航空券代の変動に合わせて本予算から支出する出張回数は減らす可能性がある。
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