研究課題
本プロジェクトではアモルファス炭素に関して、物性とミクロ構造の関係を解明すべく、コンピュータシミュレーションを用いた理論的研究を行っている。2013年度までは水素フリーのアモルファス炭素(a-C)に関する構造計算とコード整備を中心に行った。それを生かして、2014年度には水素を含んだアモルファス炭素(a-C:H)を対象とする研究へと拡張した。まず、OpenMXコードを用いた密度汎関数理論計算によって構造探索を行い、水素含有率と物性値の変化を調べた。これにより、(1) 水素含有率が増加するとともに配位数(結合数)が4となるsp3炭素原子の数密度が線形に増加すること、(2) 水素含有率が増加するとともに体積弾性率は線形に減少することを明らかにした。続いて、アモルファス炭素の形成過程と水素挙動の関連について調査を行った。実験におけるアモルファス炭素の作成過程では、プラズマを用いた炭素原子・水素原子・炭化水素ラジカルの堆積によってアモルファス炭素の薄膜等を作成する。この様な現象をシミュレーションする際は、分子動力学(MD)を用いた計算を行うことが一般的であった。我々も本プロジェクト発足当時はMDを用いた堆積計算を行っている。しかし、MDで扱える時間スケールは短く、材料中の水素拡散といった長時間スケールの現象を再現できないという課題があった。そこで、本年度は母材の構造変化挙動をMDで計算するのに加え、材料中の水素および不純物拡散を動的モンテカルロ法を用いて計算するハイブリッド手法の開発を行った。本手法は炭素系への適応を目指したものだが、先に応用研究として、同様のプラズマ照射によるタングステンの表面ナノ構造形成現象へと適応を試みた。母材の炭素をタングステンに、水素をヘリウムに置き換えることで、世界で初めてタングステン繊維状ナノ構造形成のシミュレーションによる再現に成功した。
4: 遅れている
本プロジェクトはH26年度末までに完了する予定であったが、当初の計画通りに進まず1年間の期間延長を申請し認可された。延長の理由としては、H26年度中の不慮の長期入院に伴うものだが、計算コードの開発の遅れが挙げられる。これにより計算機シミュレーションの試行回数を十分に取ることができなかった。そのため、計算結果を揃えきれておらず、論文投稿への準備が十分でない。また、入院により国内外の多くの会議発表をキャンセルせざるを得なくなり、未発表の研究成果も多くたまっている。1年間の猶予期間のうちに、必要な計算を行い、体調を戻し、本プロジェクトの成果の発表に務める。
一年間の延長期間において、本プロジェクトのまとめとして、不足しているシミュレーション計算の実行と、研究成果の発表を中心に活動する。現時点で更なるシミュレーションが必要な点として、密度汎関数理論計算による1000原子程度の大規模電子状態計算、MD-MCハイブリッドシミュレーションを用いた100万原子程度の大規模構造緩和計算が挙げられる。前者はOpenMXコードを用いたオーダー(N)法によって実現させる。後者は、H26年度に開発しMD-MCハイブリッドシミュレーションによって行う。もう少し踏み込めば、前者の密度汎関数理論による精密な計算結果を参照先として、後者で用いるMD用の原子間相互作用ポテンシャルモデルの開発も合わせて行わなければならない。この点に関しては、本プロジェクト中において、水素フリー系の炭素用ポテンシャルの開発を同様の方法で行ったのでその経験を活かす。また、後者の計算が完了した後は、アモルファスに特化した新しい物理量を探索する近年の統計物理学的な手法を取り入れることで、水素含有アモルファス炭素の構造解析を進める。
研究プロジェクトの遅れにより、延長申請を行承認された。延長年度は研究成果のとりまとめを目的として、論文発表および学会発表によって研究成果の発表を中心として活動を行う。
論文発表および学会発表を行う為、必要な旅費・会議参加費・少額消耗品の購入用途として研究費残額を有効に利用する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 3件)
Journal of Nuclear Material
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1016/j.jnucmat.2015.01.018
Journal of Physics: Conference Series
巻: 518 ページ: 012011
10.1088/1742-6596/518/1/012011