研究課題/領域番号 |
23710136
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
中川 剛志 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 助教 (80353431)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 表面磁性 / 超高速分光 / 電子顕微鏡 / 磁気円二色性 |
研究概要 |
本年度は主に、エネルギーフィルター付き光電子顕微鏡(PEEM)の調整とNi/Cu(001)磁気ドメイン観察、2)磁性薄膜生成装置の製作を行った。1)エネルギーフィルター付きPEEMの調整と磁気ドメイン観察他の研究資金で購入した新しいPEEMの調整を行った。この装置はエネルギーハイパスフィルターが備え付けられている。測定する光電子磁気円二色性はフェルミ準位付近の電子のみを測定することで、大きな非対称度が得られる。今までのPEEMでは試料の仕事関数もしくは励起光エネルギーを調整して、フェルミ準位近傍の電子のみを測定するようにしていた。しかし、これらの方法はともに決定しにくく、また変化しやすい試料の仕事関数を制御、測定する必要があることから実験効率が悪い点があった。、今回のPEEM導入により阻止電場型のフィルターが利用できるようになり、PEEMの電子レンズ等の電圧を制御して、フェルミ準位近傍の電子のみを測定できるようになった。この方法によりMCDPEEMの使いやすさ、効率が格段に向上した。新規導入したPEEM用に光路、制御プログラムを新たに製作した。レーザー光の位置安定化光路をピエゾミラーにより作成し、迅速な磁気ドメイン測定ができる計測プログラムを製作した。これらにより分解能100nm以下でNi/Cu(001)磁気ドメインの観測をした。2)磁性薄膜生成装置の製作マイクロメーターオーダーで磁性薄膜の形状を制御する蒸着装置を製作した。装置は、マイクロ蒸着マスク、試料ピエゾステージ、高フラックス超高真空蒸着源から成る。マイクロ蒸着マスクはレーザー加工により製作し、5μmの精度で任意の形状に加工できるようになった。蒸着源は10-10Torr前半で動作し、試料-蒸着源間300mm以上で1ML/minのフラックスが得られるように設計した。現在、蒸着源機械加工が終了し、組立テストの段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マイクロ形状のナノロッドの磁気ドメイン観察を当初の目標としていた。しかし、まだナノロッドの磁気ドメイン観察は完了していない。長期海外出張、実験装置製作の遅延がその主な理由である。マイクロ蒸着の工程は現在、蒸着装置の組立テストを残すだけなので、早急に完了させたい。PEEM観測は想定通り進んでいるので、今年度はMCD-PEEMによる磁気ドメインの時間分解測定に集中出来る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は1)マイクロロッドの高精度製作、2)その磁気ドメインの観察、3)レーザーMCD-PEEMによる時間分解磁気ドメイン測定を行う。1)のマイクロロッド製作と2)の磁気ドメインの測定は準備が完了しているので、早急に実験装置が所定の性能を有するか確認する。その後速やかに3)のレーザーMCD-PEEMによる時間分解磁気ドメイン測定を開始する。時間分解測定で使用する試料は形状5μm x50μ、膜厚5-10MLのグラデーションNi蒸着膜とする。ここに850nmのポンプ光で磁気ドメインを熱励起し、その伝播を波長212nmのプローブ光でMCD-PEEM測定する。また、磁気異方性の低いFeNiパーマロイ膜も実験できないか検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
試料清浄化のためイオン銃、追加蒸着装置、及び結晶研磨機を購入する予定である。試料清浄化のイオン銃はいままで使っていた物が故障したために緊急に必要である。Ni薄膜以外にも研究対象を広げるために超高真空蒸着装置を増設する。結晶研磨機は当初想定していなかったが、実験を繰り返すうちに結晶表面が荒れることがわかった。これらの結晶の劣化は多くの欠陥によるものであり、磁気ドメインがその欠陥にピン止めされる現象をMCD-PEEMにより観測している。劣化した結晶は結晶研磨機で再研磨して、再度測定に使用する。
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