レーザー誘起閾値磁気円二色性光電子顕微鏡(MCD-PEEM)により、フェムト秒、ナノメートル分解能で磁性薄膜の顕微超高速磁化観察、磁化の歳差・回転運動の制御を目指している。実験対象としてはNi薄膜を用いている。Ni薄膜は磁気異方性が比較的小さく、弱い光励起でも磁化方向が大きく変化すると考えているからである。 MCD-PEEMの更なる高速測定および感度向上のために装置改造を行った。装置開発においては主にマイクロメーターでの蒸着精度の向上と検出感度向上を行った。マイクロメーター精度の蒸着はピエゾと自作したレーザー加工機による蒸着マスクを組み合わせて行った。実験の結果から、位置分解能5μm以下の精度で蒸着膜を成長させることができた。この蒸着装置により作成したNi薄膜を用いて、水素吸着による磁気相転移観測をすることができた。実験精度の向上は偏光子とポッケルスセルを用い、高速画像検出アルゴリズムを組み込むことで実現した。ビデオレート測定の際の感度は実験前の非対称度1%程度から0.1%程度へと向上させることができた。現状の磁気二色性非対称度1%から0.1%へと一桁の向上を目指す。 時間分解測定では水素吸着により磁気ドメインの大きさが大きく変化し、磁壁が短くなることをMCD-PEEMにより明らかにした。この現象は水素吸着により磁気異方性が大きくなり、それに伴い磁壁エネルギーを減少させるべく磁気ドメインの大きさが変化してものと解釈した。フェムト秒の超高速測定では優位な変化は観測できなかった。その原因としては検出感度の不足および磁気異方性制御が不十分であると考えている。今後は異方性を高めるためにさらに精密なマイクロメーターサイズのNiロッドの作成、そしてそこでの超高速磁化測定を継続していく。
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