研究課題/領域番号 |
23710138
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
羅 世強 独立行政法人理化学研究所, Yu独立主幹研究ユニット, 基幹研究所研究員 (70565051)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 導電性高分子 / 循環腫瘍細胞 / バイオセンサー / 電気化学インピーダンス |
研究概要 |
1. 導電性高分子によるナノ構造の創製この研究課題の目的は、循環腫瘍細胞 (CTCs)をインピーダンスによりセンシングするシステムの開発である。これまでの知見により、ナノ構造を有するマテリアルが細胞を捕捉に有効であることが示されている。そこで、機能化したPEDOTによるナノ構造の創製を主要な課題の一つとした。初年度は、PEDOTのナノ構造に官能基と調製条件が及ぼす影響を精査した。EDOTもしくは、非極性基を付与したEDOTからなるポリマーは、一定の電解重合条件下でナノファイバーを形成した。一方、ヒドロキシル基、カルボキシル基などの極性基を有するEDOTは、ナノドットとチューブ状の構造をつくった。また、種々の機能化したPEDOTでコートした電極のEISを評価した。EIS測定の結果、ペルフルオロEDOTのナノドット構造を除き、機能化したPEDOT薄膜のインピーダンスは、総じて金より低かった。2. 効率的なCTCsの捕捉に向けた導電性高分子の合成導電性高分子によるナノ構造プラットフォームの利用により、CTCsの捕捉を向上した。電解重合により、ITO基板上にカルボキシル基を有するPEDOTのナノドットを調製した。ドットのサイズと密度は、かける電圧の変化により容易にコントロールでき、また高い再現性を得た。PEDOT-COOHをNHS-EDCカップリングにより、EpCAM抗体で修飾し、がん診断で用いられる5種の腫瘍細胞をサンプル上に播種した。細胞種は抗原を細胞膜上に発現しているものと、発現していないもの両種を選択した。PEDOT-COOHナノドットのアスペクト比は小さなものであったが、平滑な表面と比較して4~5倍高いターゲット細胞の捕捉を達成した。この結果は、腫瘍細胞と導電性高分子のリガンド-レセプター相互作用、ナノ構造のマッチング、力学特性の相乗効果であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノ構造と有用な官能基を用いた導電性高分子のプラットフォームにより、循環腫瘍細胞の捕捉の高効率化を達成した。構造がPEDOTの電気化学特性に及ぼす影響を評価した。当プロジェクトの一年目は、概ね順調に進展した。これまでに築いたプラットフォームを更なる進展に向けて、タンパク質/細胞の非特異吸着を抑制する官能基を有するEDOTを利用する。当初、陽極酸化アルミニウムをテンプレートに用いPEDOTナノアレイの最適なアスペクト比を検討する予定であったが、導電性高分子の柔軟さによりアスペクト比が約3を程度で直立したアレイの保持が難しくなる。そのため、今後はテンプレートフリー法にフォーカスし、導電性高分子のナノ構造を創製していく。
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今後の研究の推進方策 |
ラベルフリーなCTCs検出のためのインピーダンスセンサーの開発(1)非特異吸着を抑制するものモノマーの利用:初年度に得られたプラットフォームを向上するための方法として、材料の非特異吸着を減らし、感度を向上させる方法が考えられる。非特異的な細胞の吸着を抑制することが、非常に重要になる。オリゴエチレングリコール鎖や、双性イオン基をEDOTに組合せ、非特異吸着を抑制するPEDOTによりプラットフォームの進展を目指す。 (2)CTCsを検出するインピーダンスセンサーの作製:導電性高分子の利点を生かし、細胞の状態をリアルタイムで検出を可能にするため、CTCsの検出を目的としたインピーダンスセンサーを創製する。(a) センサー表面のナノ構造の制御により、インピーダンスセンサーとしての感度の最適化。(b) 導電性ポリマーのナノ構造上に固定化した抗体と、CTCsとの特異的な相互作用をプロファイルに基づき検討。(c) 得られる分析結果により、インピーダンスセンサーによるCTCs検出限界の評価。(3)マイクロ流路を利用したより高効率なCTCsの検出・捕捉:最終的にはマイクロ流路に応用し、導電性ポリマーデバイスおよび電気化学インピーダンスセンサーとしてCTCsの検出・捕捉を評価する。生体を模倣した環境を作りやすく、検出対象物質のロスを防ぎやすいことから、マイクロ流路のバイオエンジニアリングへの応用は注目を集めている。電気化学型バイオセンサーが優位性は、マイクロ流路に組込み可能な小型デバイスを作製できることである。マイクロ流路のチャンバーに導電性ポリマーのナノ構造を調製し、デバイス内に各電極を組み込む。インピーダンスセンサーとしても機能するこのデバイスにより、CTCsを含む緩衝溶液、培養液、複数種の細胞を含むサンプルをテストする。最終的には、ヒトの血液サンプルを用いた検出・捕捉能評価を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、CTCsを検出するインピーダンスセンサー作製過程での、フローチャンバーの作製やマイクロ流路の設計に70万円を充てる。残りの予算は、QCM-Dを主に各種消耗品に充てる。国内・海外学会への出張費として40万円程度を見込んでいる。
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