研究課題/領域番号 |
23710145
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
寺尾 京平 香川大学, 工学部, 助教 (80467448)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | バイオナノテクノロジー / 一分子操作 / MEMS / マイクロTAS |
研究概要 |
本研究は、生体分子を1分子レベルで加工するツールを開発し、新たなゲノム解析技術へ応用するものである。2年間で、ゲノムDNAの切断加工を試行し、本ツールの原理検証まで到達することを研究目的としている。1年目の平成23年度は以下の項目の要素技術の開発と酵母ゲノムDNAの操作の実証に取り組んだ。(1)ナノ構造体の設計・製作:DNA鎖と安定な接触を実現するため、構造中央部にくびれを設けたツール(ナノ構造体)を設計し、電子線描画装置によりパターンを形成し、紫外線硬化樹脂を用いて基板上に大量に一括製作し、バッファー溶液中に回収した。また、その際のツールの回収歩留まりを評価し、製作条件の最適化に取り組んだ(2)光ピンセット光学系の構築:赤外レーザーを用いたシングルビーム光ピンセット光学系の調整を完了し、蛍光観察と光ピンセット操作が同時に実行可能な環境を構築した。(3)タンパク質表面固定化:ナノ構造体表面に化学修飾するための予備的検討として、平面基板を用いて自己組織化膜を介した抗体分子の固定化を実施し、SPRセンサによって固定化を確認した。(4)トラップ力・姿勢評価:ツールを光トラップし液中で移動することで、粘性抵抗力を受けた時のツールのトラップ力とトラップ姿勢の評価を行った。理論計算によりマイクロビーズとツールのトラップ力の比較を行い、DNA操作に十分な力が得られることが確かめられた。以上の個別要素技術を統合し、平成23年度中にツールを用いた分裂酵母ゲノムDNA分子の液中物理操作を実現し、既存のマイクロビーズによる操作と比較を行うことで優位性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、2年間で、ゲノムDNAの切断加工を実証し、本ツールの原理検証まで到達することを研究目的としている。平成23年度はDNA操作環境の構築を主な課題に、以下の個別要素技術の達成を目標として研究開発に取り組み、当初の計画通り進展させることができた。(1)ナノ構造体の設計・製作:ナノ構造体の作製については、当初計画していた加工方法で問題なく作製できることが早い段階で確認できたため、今後の操作実験効率を高めるため、さらに条件の最適化を行い、構造体の回収率の向上を達成した。(2)光ピンセット光学系の構築:レーザーと光学部品の調達に時間を要したものの、その後は速やかに光学系の調整を行い、計画していた光ピンセット操作環境の構築を完了した。(3)タンパク質表面固定化:タンパク固定化に関する基礎実験として平面基板を用いた修飾評価方法を考案し、抗体の固定化により検証した。(4)トラップ力・姿勢評価:当初は数値計算による粘性抗力を基にしたトラップ力の評価を行う計画であったが、より簡便な、理論による抗力係数の計算を採用し構造体のトラップ力を算出した。平成23年度中に酵母ゲノムDNAの分子操作の実験環境が構築できており、当初の計画通り順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
期間内の目標は、分子加工の原理を実証することである。DNA鎖切断ツールを開発し、酵母ゲノムDNAを用いて、顕微鏡下でのピンポイントな分子切断を実験的に示す。平成23年度に基盤となる操作環境や構造体作製に関する知見が得られたため、平成24年度はそれらを活用し、当初の計画に基づき、以下に取り組む計画である。ナノ構造体へのタンパク質固定化について、平面基板による予備的検討を基に、固定化方法を決定し、ナノ構造へのタンパク質の固定化を試行する。それと平行して、標準的なバルク実験系を使って、固定化されたタンパク質の切断活性を定量的に評価し、固定化条件の最適化に取り組む。タンパク質機能を制御するため、マイクロ流路を用いた溶液環境制御技術をに取り組み、溶液環境の迅速な切り替えを実現し、タンパク質機能のON/OFFを制御を目指す。最終的に上記の技術を統合し、平成24年度中に酵母ゲノムを用いた切断加工に取り組み、分子加工ツールの加工特性に関する知見を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画の通り、次年度の目標達成に必要なプロセス材料、バイオ実験試薬等の消耗品及び備品を購入する計画である。光ピンセットの光学系については機能を拡張するための機器(ガルバノミラー光学系)を平成23年度後期に購入する計画を立てていたが仕様の決定と検査・納品に数カ月時間を要することから、平成24年度の購入を計画している。また、本プロジェクトの研究成果発表として平成24年度に国際会議・国内会議それぞれ一件の参加を予定している。
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