二層グラフェンを用いたハイブリッドメタマテリアルの実現を目的に、グラフェンでできたメタマテリアルの作製とその赤外特性の評価に取り組んだ。デバイス作製ではまず、銅薄膜上に化学気相成長したグラフェンを熱酸化膜付シリコン基板上に転写した後、フォトリソグラフィおよび酸素プラズマによる反応性イオンエッチングを用いて、線幅1 ~ 3 マイクロメートル程度の短冊形状に加工した。次に、電子ビーム蒸着を用いてゲート電圧印加用と電流計測用の金電極作製を行い、デバイス作製を完了した。デバイスを構成するグラフェン構造の光学的評価として、顕微ラマン分光法による層数分析と欠陥評価を行った結果、作製プロセスによる欠陥数の増加がなく、高品質かつ単層のグラフェンが得られていることを確認した。また、グラフェンのシート抵抗のゲート電圧依存性を測定した結果、典型的な二極性動作を確認し、10000 cm2/Vs程度のキャリア移動度を有することがわかった。次に、赤外顕微鏡を組み合わせたフーリエ変換型赤外分光器を用いて、作製したグラフェンメタマテリアルの赤外特性の評価を行った。測定では、Si基板と金電極の間にゲート電圧を印加し、正孔キャリアをグラフェン構造にドープした際の反射赤外光を分光計測した。その結果、周波数6 THz(波長50 マイクロメートル)付近の特徴的な赤外吸収の観測に成功した。さらに、電子計測の結果から算出されるフェルミレベル、減衰定数を入力パラメータとする有限要素解析を行った結果、この赤外吸収が、グラフェン構造に特異的に励起される局在プラズモンに起因することを明らかにした。これらの研究成果は、中・遠赤外領域のプラズモン(低エネルギー素励起)が室温においても安定励起できることを示唆するものであり、ナノカーボン材料を用いた高感度な生化学センシングや高効率な赤外光源への応用展開が可能である。
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