研究課題/領域番号 |
23710170
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
辻 康孝 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90304732)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 組合せ最適化 / 鉄道 / 群知能 / スケジューリング / アルゴリズム / 局所探索 |
研究概要 |
23年度では,周期的制約を持つ組合せ最適化問題に対するアントコロニー最適化法(ACO)の開発を行い,実応用として旅客鉄道の車両運用計画問題(連結分割なし)への適用を行った.車両運用問題では,少ない車両数でかつ少ない回送数及び距離での車両運用と数日以内に一度車両検査を行う検査計画を同時に考慮する必要がある.まず周期制約に対しては開発済みのACOの解構築プロセスの中で検査周期を取り入れる手法の見直しを行った.またアークの繋ぎ替えに基づく車両数と回送コストをそれぞれ改善する局所探索法の開発を行った.さらに最小車両数とそれより数台車両数が多い解を同時並列に探索し,回送コストも同時に最小化できるコロニーの複数化法を開発した.実路線から作成した問題(列車数128,293,368)に適用し,その性能評価を行った.その結果,開発したACOの解構築法により比較的容易に検査周期制約を満たす解を生成でき,開発した局所探索法の導入より必要車両数の削減,回送コストの削減が達成できた.しかし大規模問題では,検査箇所が過剰になる解が得られる結果となった.また申請者が志向する多目的化に対する複数コロニー(+局所探索)の実装に関しては,狙い通りの探索を達成できただけでなく,単純に個体数を増やした単コロニーACO(+局所探索)と比較しても,車両数及び回送コストの改善された解を安定的に生成することができた.これは複数のフェロモン情報を用いて探索することで解の多様性が維持され,探索性能の向上に繋がったためである.最後にGAとの探索性能の比較実験を行い,開発手法の有用性も確認した.開発ACOの汎用性を示すために,新たな適用例として熱間圧延のスケジューリング問題にも取り組んだ.圧延スケジューリングも複雑制約を持つ巡回路問題としてモデル化でき,提案したACOの構成的解構築法が適用でき,予備実験では良好な結果が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題では,複雑な制約条件(周期的制約)を持つ組合せ最適化問題に対するアントコロニー最適化法(ACO)を開発するだけでなく,問題の規模が大きくなっても十分な探索性能を有するアルゴリズムの開発も目指している.開発したACOアルゴリズム及び局所探索法は中規模問題(列車数128程度)に対しては非常に良い探索性能を示していた.しかし大規模問題(列車数300以上)に対しては,得られた解を車両運行表に書きなおして分析したところ,車両数,回送コストともに改善の余地が残されており,開発したACOおよび局所探索の探索性能は不十分であることが分かった.理由は,周期制約を3日置きではなく3日以内としたため,車両検査箇所が過剰に設定されていたためである(絶対必要数よりも3,4箇所多い設定).さらに検査設定箇所が14時以前に集中しており,その時間帯の車両運用が厳しくなっていた.この過剰な検査箇所を減らして,検査実施時間も適度に分散させることができれば,その削減された時間だけ列車を担当させることができ,結果的に必要車両数の削減が期待でき,回送コストの削減にも繋がる.そのため,検査実施時間帯の分散も考慮したACOの解構築プロセスの開発および過剰検査設定箇所を削減する局所探索法の開発を行う必要があったが,23年度中の対応ができなかった.また検査周期は日数単位だけでなく走行距離単位でも計画していたが上記理由により対応できなかった.さらに回送コストを削減する局所探索は単純なアークの繋ぎ替え操作により実現したため,ある回送設定箇所を繋ぎ替えで削減しようとすると別の回送が生じてしまうケースが見られた.そのためより高度(複雑)な繋ぎ替えを実装した効果的な局所探索法の開発が必要であった.
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今後の研究の推進方策 |
23年度で対応できなかった車両検査設定における問題と局所探索法における問題点の改善を行う.また複数コロニーによる多目的化は,申請者が志向する多目的探索を実現し,またACOによる解探索の能力も高めることができた.しかしコロニーを複数化することは,その分計算コストの増大に繋がることになる. 23年に本研究費で調達したワークステーションはマルチコアプロセッサーであることから各プロセッサーにコロニーを割り当てる並列処理化を試みる.上記問題点を解決あるいは方向性を示したうえで,24年度は予定通り,車両の連結分割も考慮した実運用に則した車両運用計画問題に取り組む.連結分割を考慮した場合,問題が極めて複雑になる.23年度の連結分割を考慮しない車両運用計画に,車両のタイプやその上限数,連結分割作業コストの導入,車両編成数の緩和,等さまざまな事項を追加することになる.そのため,そのモデル化についてはその後のACOアルゴリズムの開発,そのプログラミングも踏まえて,十分時間をかけて行う.そして23年に本研究費で調達したワークステーション上にACOアルゴリズムを実装し,数値実験を通して手法の有用性を評価する.連結分割運用に対応したACOアルゴリズムの開発できれば,さらに列車編成と運用計画問題を融合させた問題への挑戦を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に主要物品(ワークステーションおよび高解像度液晶モニタ)の調達を本研究費により調達しており,本年度はこれら調達物品を用いて得られた研究成果の発表(学術雑誌への投稿,国内外の学会での発表)に主に使用する予定である.
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