研究課題/領域番号 |
23710171
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
稲川 敬介 秋田県立大学, システム科学技術学部, 助教 (50410759)
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キーワード | 救命 / 政策研究 / 都市計画・建築計画 / モデル化 / シミュレーション工学 |
研究概要 |
本研究では,消防広域化による救急車システム合併の効果の分析と運用効率化のための研究について取り組んでいる.研究期間2年目の研究実施計画は,救急データの整理と分析,評価モデルの構築と基本モデルの応用による簡単な数値実験の試行である.これらに関する具体的な取り組みと活動を以下にまとめる. 1.救急データの整理と分析では,地元消防本部の協力により5年分の実データを提供していただき,予定通りにデータ整理と分析をおこなった.その結果,平成の大合併を経た地方都市では,旧市町村の縛りを受け,救急自動車(以後,救急車)の台数・配置などが通常の自治体の状況とは異なる状況にあることがわかった.また,自治体内における地域差が大きく,さまざまな問題点も確認できた.さらに,領域が広く,かつ救急車の呼び出しは低頻度という地方都市特有の状況が見えてきた.分析結果の一部は,ISOLDE XII(名古屋・京都,7月)にて口頭発表した. 2.評価モデルの構築と基本モデルの応用による簡単な数値実験の試行では,研究初年度に構築しているシミュレーションモデルに分析結果による数値を当てはめた結果が出せるように修正した.また,基礎モデル上でおこなったシミュレーション実験で,平均対応時間(救急車を呼びだしてから現場に到着するまでの平均時間)に関する下限値の性質を実験的に示し,ACMSA 2012(Chengdu China, 9月)にて口頭発表をおこなった.また,研究初年度の成果とまとめて査読付き論文(ISCM, 2012)として発表した.さらに,数理計画法を用いた再配置モデルに関しては OR 2012(Hannover German, 9月)にて口頭発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度以降の計画に予定していた救急データの整理と分析については,地元消防本部の協力により,順調におこなうことができた.また,当該研究課題の範疇を超えるさまざまな問題点についてもわかってきた.本研究の遂行に加えて,新たな研究課題を発見できたことは,計画以上に進んだ点とも考えられる. また,消防本部の合併に関する現状調査では,秋田県内において想定されていた合併案について,実際に合併された地域とされなかった地域の結果を調査することができた.ただし,主な調査対象としていた自治体は合併をおこなわないことを決定したため,具体的な内部事情に関する調査をおこなうことはできなかった.そこで,本研究では,データ分析をおこなっている地域の現状は変化なしの状況とし,モデル上で仮想的に合併した場合について考察することで研究を継続する.また,調査対象地域は,既に平成の大合併により合併済みの地域であったので,過去の合併についても調査可能であることがわかった. 初年度の研究からの継続である評価モデルの構築については,調査対象地域が一部ドクターカーシステムを組み合わせた独自のシステムを採用していたことがわかり,データの扱いに注意が必要となった.しかしながら,独自のシステムは別の新たな研究課題として研究することとし,本研究ではその部分のデータを削除,またはデータを調整し,多くの自治体で採用されているシンプルな運用システムに変換することにより,少なくとも予定通りの研究は可能であると考えている.これらの状況を踏まえ,おおむね計画通りであると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度の主な計画のひとつは,実データの分析結果を基にして,構築したモデルにより合併の効果を試算することである.また,研究成果を地域に還元する可能性も含め,合併後の運用効率化に関する提案も目標のひとつである.現在調査対象としている自治体は,合併しないことが決まったが,本研究では,合併していた場合の効果について試算する.また,調査対象地域は,平成の大合併により既に複雑な合併を経て,現在,地域格差を残した状況にあることがわかったので,この合併に関する効果を試算することも最終年度の計画に含める.この場合,現在の自治体内の運用効率化についても考えたい. さらに,学術的な研究として,実データを用いた救急車の配置と台数に関する平均対応時間の下限値の性質についてもさらに研究を進める.この部分の研究は,既に基礎的な実験を終えており,EURO 2013 にて発表予定であるが,発表後のコメントを参考にして,さらに研究を進めたい. また,新たな方向性のひとつとして,調査地域独自のドクターカーシステムを取り入れたモデルを構築できないか検討する.ただし,この部分の研究は,今後の研究課題にも関連するので,基本的には合併の効果に関する研究を優先させる.しかしながら,本研究で得られた平均対応時間の下限値の性質は,ドクターカーシステムを考慮した数理計画モデルを作成する場合には,有用な性質を持っていると考えている. 合併の効果に関する最終的な研究成果は,論文としてまとめて投稿する.投稿論文誌としては,現実的な意義に留意し,日本都市計画学会の都市計画論文集を予定する.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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