研究課題/領域番号 |
23710173
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中西 美和 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (70408722)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 好奇心 / 生理反応 / デザイン / 数理モデル / ミュージアム |
研究概要 |
多くのプロダクトやサービスが機能・性能という面で成熟し、差別化が難しくなりつつある今日、新しいプロダクトやサービスが実際に社会に受容され、利用されるためには、機能性や安全性だけでなく、ユーザの心的側面への働きかけ、すなわちユーザに「使ってみたい」「もっと使ってみたい」「もう一度使ってみたい」などと感じさせるための演出が求められる。ユーザがプロダクトやサービスの利用に対して抱く動機づけは内発的動機づけに分類される。この内発的動機づけに関して、過去の心理学研究では人と対象との認知・情動・能力の各側面における適度なずれによって生じることが理論的に説明されている。そこで本研究では、ユーザは自身の内的な特性と適度にずれたプロダクトやサービスに対して内発的動機づけを高めるという仮説モデルを立て、実験的検証を試みた。H23年度の主な成果は以下の2点である。1) 内発的動機づけの評価方法の探索 まず心理学領域の文献調査から内発的動機づけを構成する要素を抽出・整理し、主観評価項目を構築した。次に、内発的動機づけが高まる状況を実験的に作り出し、生理計測を行った。実験から、瞬目頻度、皮膚コンダクタンス反応、心拍数が主観評価の結果と強い相関を示し、ユーザの内発的動機づけを検出する指標になり得ることが示唆された。2) 適度なずれの導出方法の検討 ユーザの内的な特性は本来個々に異なる。そこでユーザの内的な特性を同定し、適度なずれを導出する方法の検討を実験的に行った。内的な特性をユーザが最も興味の強いカテゴリーによって理解し、興味が最も強いカテゴリーから各カテゴリーへの距離を内的特性とのずれと定義した場合、ずれの水準が0.1~0.2のとき、ユーザの内発的動機づけが一様に高まる傾向が、主観評価、瞬目頻度、脳血液量変化の分析から見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、当初より以下4段階のプロセスによって進めることを計画しており、H23年度終了時の到達目標であったiとiiのプロセスは、上記の研究成果のこうに述べたとおり、おおむね達成された。i. a)個々のユーザの情動・認知・能力の特性を規定するための主観評価項目を選定すべく、心理学分野(主に動機付け研究)の文献調査をもとに、KJ法による項目抽出を行った。b)プロダクト・サービスが演出する情動・認知・能力への働きかけ特性を規定するための評価項目を選定すべく、多種のプロダクト・サービスを調査対象者(成人男女60人)に提示し、PCプログラムを用いて、上記で選定されたユーザの特性を規定するための評価項目の観点から情動・認知・能力への働きかけ特性の評価データを得た。c)プロダクト・サービスを特定化するデザイン要素を分析すべく、多種のプロダクト・サービスを分析してデザイン要素に分解し、それらをカテゴリーに分けてリスト化した。ii. 複数のプロダクト・サービスを被験者(14人)に提示して、その際の生理反応計測と好奇心の程度に関する主観評価を問う実験を行った。行動反応として操作頻度、瞬目頻度、生理反応として脳血流量(O2Hb濃度)、瞬時心拍数、皮膚電位活動に注目して、プロダクト・サービスに対する好奇心の客観的測度を探り、好奇心の程度を各種生理指標より定量値として求めた。さらに、好奇心と各種生理指標の関係を数値シミュレーションにより導出した。 引き続きH24年度に進める予定である以下のiiiとivのプロセスについても、既に検討・準備段階に入っており、今後の順調な遂行が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度は、当初の計画通り、H23年度のiとiiのプロセスに引き続いて以下のiiiとivのプロセスを遂行する予定である。iii. デザイン手法の構築 (H24年度前期) 前項のモデルを逆関数化し、個々のユーザの情動・認知・能力が与えられれば、そのユーザにとっての最適な「ズレ」が決まり、さらにその「ズレ」を実現するデザイン要素の条件が導き出される手法を構築する。これによって、個々のユーザの好奇心を最大化するプロダクト・サービスのデザイン導出手法を確立することができる。iv. 実証実験 (H24年度後期) 前項のデザイン手法を用いて、個々のユーザの好奇心を誘発するプロダクト・サービスの具現化を試みる。また、それをユーザに体験させる実験を実施し、その際の好奇心の程度を評価して本研究成果の検証を行う。実験の対象は、ミュージアムにおける光学シースルーHMD(Head Mounted Display)を媒体とした情報提供サービスとする。この実験では、このディスプレイにミュージアムの各展示物に関する情報を提示する。ただし、その情報内容には、個々のユーザにとっての最適な「ズレ」を施す。被験者を3つのグループに分け、情報提示サービス自体を利用しない群、全てのユーザに同一の情報を提示するサービスを利用する群、最適な「ズレ」を施された情報提示サービスを利用する群(各群20人、計60人)に、それぞれミュージアム鑑賞を体験させ、行動、生理、心理反応を計測・分析して、各群の好奇心の程度を比較する。 H23年度までの研究の進捗状況を鑑みて、H24年度終了時点までに上記の目標を達成することは十分に可能であると見込まれる。
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次年度の研究費の使用計画 |
計測機器などは既に調達済みであるため、H24年度は主に上記のivのプロセス(実証実験)を実施するための実験環境構築に係る費用、被験者謝金、及び成果報告(国際会議参加)のための旅費、論文執筆及び投稿に係る費用として、研究費の使用を計画している。これは、当初の計画通りであり、特に大きな変更点などはない。
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