ユーザがプロダクトやサービスの利用に対して抱く好奇心は、心理学領域では内発的動機づけに分類される。心理学者Huntは、内発的動機づけについて、人と対象との認知・情動・能力の各側面における適度なずれによって生じるという説を唱えている。本研究では、この理論を礎に、ユーザは自身の内的な特性と適度にずれたプロダクトやサービスに対して内発的動機づけを高めるという仮説モデルを立て、実験的検証を試みた。具体的なプロセスは次の通りである。 1) 内発的動機づけの評価方法の探索: まず、心理学領域の文献調査から内発的動機づけを構成する要素を抽出・整理し、主観評価項目を構築した。次に、内発的動機づけが高まる状況を実験的に作り出し、生理計測を行った。実験結果から、瞬目頻度、皮膚コンダクタンス反応、心拍数が主観評価の結果と強い相関を示し、ユーザの内発的動機づけを検出する指標になり得ることが示唆された。 2) 適度なずれの導出方法の検討: 個々のユーザの内的な特性を同定し、適度なずれを導出する方法を検討した。内的な特性をユーザが最も強い興味を抱くカテゴリーによって理解し、それから各カテゴリーへの距離をずれと定義した場合、ずれの水準が10~20%のとき、ユーザの内発的動機づけが一様に高まる傾向が、主観評価、眼球運動、脳血液量変化の分析から見出された。 3) 実験的サービスによる仮説検証: 対象場面にミュージアムを設定し、各ユーザの内的な特性と適度にずれた注釈情報を絵画鑑賞中に提供した際のユーザの行動、眼球運動、脳血液量変化、内省のデータを測定する実験を行った。結果、ユーザの内的特性と適度にずれた注釈情報を提供した場合、内的特性と一致した注釈情報や過度にずれた注釈情報を提供した場合に比べ、ユーザがより積極的に、自発的な興味を持ってミュージアムを鑑賞する傾向が確認された。
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