本研究では,利用者の遅延制約があるサービスシステムについて,待ち行列モデルを用いた性能解析を行い,遅延制約がシステム性能に及ぼす影響を解明した。さらに,数値的に扱いやすい近似モデルを構築することにより,システム性能の近似的な評価方法を提案した.最終年度の成果は以下の通りである. (1)単一窓口モデルにおける系内数分布の導出:M/G/1+G待ち行列モデルの系内数分布について,ポアソン確率関数と仮待ち時間分布の畳み込み表現によって得られることを証明した.このために,仮待ち時間と実待ち時間が分布の意味で一致することを,サンプルパスの比較により示した.ここで先行研究においては,本研究のように仮待ち時間分布と実待ち時間分布の同一性については着目されてこなかった.そのために本結果は,これまでに待ち人数分布の導出が難しいとされてきた多くのモデルへ適用可能であることを示唆している. (2)複数窓口モデルの近似解析:PH/PH/c+G待ち行列モデルについて,途中退去過程のマルコフ近似を行い,数値的に扱いやすい近似モデルを構築した.ここでは,近似モデルが状態依存型の準出生死滅過程であることを利用し,性能評価量の数値計算アルゴリズムを導いた。また,提案したモデルの近似精度をシミュレーションとの比較実験により数値的に確認した.ここでは,待ち客がサービスを受け始めるまで待つことのできる時間の分布の裾が軽い場合には,近似モデルの精度は高く,裾が重い場合には精度が望めないことが示された.
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