研究課題/領域番号 |
23710186
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
片岡 隆之 近畿大学, 工学部, 准教授 (40411649)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | ベイジアン / スキル / 生産 / システム |
研究概要 |
平成23年度に実施した研究の成果については,交付申請書に記載した「研究実施計画」のとおり,以下の2点について研究を進めることができた.1: 操作習熟度を判断するための環境要因・操作プロセス・定量評価値の設定 操作履歴の収集やそのデータからベイジアンネットワークモデルの構築を検討する前に,まず操作習熟度を定量的に判断するための環境要因・操作プロセス・定量評価値の設定が必要不可欠である.本年度の研究では,新たに工程数と作業者数の2軸を想定した4つのサンプルデータに対し,各変数を大きく3つに分類し,親ノードには作業者,操作における目的などの環境要因を配置し,1回目から10回目までの操作プロセスにおける目的(総作業時間と総作業重複)の増減値に因果関係があるとし,そこから最終的な定量評価値や日程計画の妨げとなる要因(手戻り操作)に因果関係があるとすることで,効果を挙げることができた.2: 熟練技術者と非熟練技術者の操作履歴によるスキル抽出法の確立 次に操作履歴の収集を行い,熟練技術者と非熟練技術者における日程計画の計画手順の違いについて,操作の目的別(総作業時間を最小化する場合と総作業重複を最小化する場合)に分けて考察し,その特徴を明らかにした.具体的には,工程数が多い場合,非熟練者の総作業重複最小化は熟練者と大きな差が見られ,重複を減少させるための操作方法を理解していなかった.工程数が少ない場合,熟練者が少ない策定回数で最適近似解を出し,作業員数が少ない場合,非熟練者は"手戻り"が発生し易いという傾向が見られた.さらに,収集した操作履歴を基にベイジアンネットワークモデルを構築し,確率推論を行うことにより,熟練技術者の操作の有効性を検証するとともに,両者における操作の差を埋めることによって,熟練技術者に近い最終評価値が求められるような操作基準を検討し,その効果を確認できた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的としては,近年,経営工学分野である科学的・工学的アプローチや管理技術ノウハウが再注目されている中,国内産業を支える製造分野における熟練技術者による管理技術ノウハウに関するモデリング研究がなされておらず,具体的事例が散見される程度でしかなかった.しかしながら,特に技術伝承の研究分野における知識工学や画像工学の分野では,膨大なデータから熟練者の暗黙知を計量的手法で解析する危機管理モデリングや,熟練技能者の動作スキルを画像処理技術によって分析・抽出する方法等が中心となっている.そこで本研究では,近年,確率推論の一つとして注目を浴びているベイジアンネット推論技術を応用することにより,操作者スキル適応型動的フィードバック生産システムの開発を目指している.特に本年度の研究では,「研究の目的」に記載された以下の研究課題に取り組み,次の成果を出すことができた.(目標1) 生産システム操作履歴に基づく計画スキル抽出法の確立とそのモデリング 申請者のこれまでの研究成果に基づき開発された対話型生産システム(プロジェクト・スケジューリング版)の目的別(負荷平準化,メイクスパン最小化等)の操作履歴に基づき,ベイジアンネット構築支援ソフトによる条件付確率の変動に対する検知・調整方式を分析し,計画スキル抽出法のモデル化を達成できた.さらに,新規に開発する対話型生産システム(ジョブ・ショップ・スケジューリング版)においても,既に同様の方法で分析・モデル化を試み始めており,その一端は学会等で発表することができた.
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度はほぼ計画通りの研究成果がでているため,平成24年度以降は当初計画の通り,以下の内容について研究を進めていく.1: ベイジアンネット技術と生産システムの動的フィードバック管理方式の確立 平成23年度の研究で分類・再抽出された環境要因・操作プロセス・定量評価値に基づくベイジアンネットワークモデルと既存の対話型生産システムを同期化させ,どのレベルの操作者が作業しても,常に動的に入力データをベイジアンネットワークモデルにフィードバックさせることで,表示される次の操作に対する条件付確率が作業者のレベルに適するように,その値を変動させる動的なフィードバック管理方式を新たに検討する.なおベイジアンネットワークモデルは,Amazon.comにおける書籍購入に際し,検索した書籍を購入したユーザが他の書籍を購入する条件付確率を%表示させる技術として利用されていることでも有名であることから,本ステップにおける研究においても成功する可能性は高い.2: ジョブ・ショップ・スケジューリング方式への展開 個別生産方式の日程計画を支えるもう1つのジョブ・ショップ・スケジューリング方式について,新たに実験用生産システムを構築するとともに,これまでの研究と同様のステップで,同じ目的を持つ対話型生産システムの開発を目指す.これにより,個別生産方式における日程計画操作全体を包含した対話型生産システムを開発することになり,一般的な企業内にて試行することが可能となる.なお,本研究の生産システムは,全てJava言語で構築されていることから,Windows上のみならず,Linuxなどのプラットフォームに依存することなく利用できることから,様々な業界で活用が検討されると期待できる.
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は,平成23年3月11日に発生した東日本大震災の影響により,当初,交付額と支出日が未確定な状況が続きました.本研究では,採択前までの研究成果に加え,採択後の4月以降に追加実験した内容について,平成23年7月29日~8月6日にドイツ(シュトゥットガルト)にて開催される本研究分野における最も有名な国際会議(International Conference of Production Research 2011)にて発表し,国外の研究者とその有効性と今後の展望についてディスカッションする計画を立てておりました. しかしながら,頭書の事象が発生したことから,まず実験に必要不可欠な物品費と国内旅費を優先したため,上記国際学会への参加は,学内独自予算で賄わざるを得ませんでした.その後,当初の予定通り,満額が支給されることが決定しましたが,大学事務と相談し,無理に予算を使用するよりは,本制度の趣旨に基づき,当初計画の外国旅費と学会発表費用分を繰り越した方が良いとの結論に至り,平成23年度は当該分の379千円を未使用金として計上するに至りました.なお,本未使用金は,平成24年12月に開催されるアジア・太平洋圏国際会議の外国旅費と学会発表費用に充当する予定です. それに加え,平成24年度の研究費使用計画については,直接経費500千円を予定しており,内訳としては,物品費として実験データ蓄積用ハードディスク100千円,6月に韓国で開催される国際会議への外国旅費200千円とその他学会発表費用50千円,連携研究者との打ち合わせに必要な国内旅費100千円,シミュレーション実験補助として謝金50千円を予定しています.
|