本研究は,災害に対する一般市民のリスク認知の地理的分布を地図上に表現する「災害リスク認知の地理情報化手法」を開発し,減災対策への応用可能性を実証的に示すことを目的とするものである。そのためには,ケーススタディ地域において一般市民の災害リスク認知を計測することが必要とされる。 平成24年度中には,前年度に実施した,東日本大震災で甚大な液状化被害が生じた茨城県潮来市日の出地区における従前居住の全世帯主を対象としたアンケート調査のデータの分析を進めるとともに,茨城県大洗町の大洗サンビーチにおいて夏季の海水浴客を対象に津波災害のリスク認知と避難行動意向に関するヒアリング調査を実施した。 前者に関しては,日の出地区住民の災害リスク認知,震災前の生活環境,震災による被害程度の実態を把握した上で,震災後の転居・居住継続意向の要因分析を行った。今後の居住継続意向に関しては,震災による被害程度よりも従前の自宅や生活環境の評価やコミュニティへの親近感との関連性が強いことを明らかとし,液状化被災地における復興のためには,道路などのハード面の早期復旧のみばかりでなく,コミュニティ意識を高めるまちづくりなどソフト面の対策も必要であることを見出した。 後者に関しては,海水浴客の津波へのリスク認知,及び,津波警報発令を想定した場合の避難方向,移動手段などの避難行動意向等を尋ねると同時に,調査員がGPSロガーを携行することで回答者の位置情報を記録した。これにより,海水浴客のリスク認知や避難行動意向をGIS上に表示するとともに,ビーチ内での位置別に避難者がたどるであろうルートを推定するなど海水浴客の避難行動意向について解析を行った。当地での海水浴客の避難については,これまでも量的規模の大きさが懸念されてきたところであるが,本研究の成果は,その課題に対し定量的な根拠に基づき対策を示す可能性を有するものである。
|