研究課題/領域番号 |
23710196
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研究機関 | 諏訪東京理科大学 |
研究代表者 |
今村 友彦 諏訪東京理科大学, システム工学部, 助教 (50450664)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 火災プルーム / 傾斜角度 / 発熱速度 / 火炎形状 / 温度分布 |
研究概要 |
本研究は、特に傾斜面上に形成された拡散火炎を対象として、その形状や温度・速度,周囲へ及ぼす熱流束などの、防火対策の立案上必須となる性状について、工学的予測モデルの構築を目的とするものである。平成23年度は、傾斜により火炎が斜面上に倒れこんで伝播するメカニズムを明らかにするとともに、火炎形状・温度・熱流束性状等を発熱速度、傾斜角度等を変数として予測できるモデルの構築を目的とした実験を行った。実験では、1200mm×1800mmの大きさを持つ傾斜架台(傾斜角度0°(水平)から80°まで任意に傾斜角度を設定可能)に、地面を模擬したセラミックボードを敷き詰め、架台の上流側端部から300mmの位置に火源中心が位置するように平面バーナーを配置した。バーナーは開口部が正方形(100mm×100mm),矩形(100mm×600mm)及び線形(10mm×600mm)の3種類を使用した。バーナーの開口部とセラミックボードの表面は同一高さになるようにした。燃料はLPGとした。傾斜角度は0°~40°の範囲で10°ずつ変化させた。火炎を側方からデジタルビデオカメラにて撮影するとともに、線径0.32mmのK型熱電対90点を3枚の金網に取り付けて、温度場を3次元的に計測した。得られたデータをもとに、火炎形状及び温度性状に及ぼす傾斜角度の影響について検討した。火炎が斜面上に付着して伝播する長さ(付着距離La)、火炎先端から斜面におろした垂線の長さ(火炎高さHf),火炎の立ち上がり角度(θ2)を定義した。まずLaについて、正方火源の場合は、発熱速度にほとんど依存せず傾斜角度のみに依存する傾向が見られた。Hfについては傾斜角度と発熱速度の双方に依存する傾向が見られた。これらの結果をもとに、La及びHfを予測できる関係式を求めた。関係式の妥当性の検証と拡張及び理論的裏付けが次年度の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
防火対策の立案上必須となる、傾斜地における火炎形状や温度・速度・周囲へ及ぼす熱流束などの性状について、特に火炎への空気巻き込み挙動を定量化し、傾斜面上での火炎挙動を明らかにするとともに、火炎および熱気流の形状や温度等の諸性状を、消防実務等で十分な精度で予測可能なモデルを構築することが、実施計画書に記載した平成23年度の目標である。火炎への空気巻き込み挙動の定量化については、火災プルームが作り出す速度場を効率よく計測するための装置を導入し、計測方法の確立に向けた端緒をつけた。今後、実験と数値シミュレーションにより空気巻き込み挙動の可視化と定量化を進める予定である。火炎形状及び温度分布のモデリングについては、23年度の実験に基づき一定の成果を得た。まず火炎形状については、正方火源からの火炎の場合、付着距離Laが発熱速度に依存せず傾斜角度のみに依存すること、火炎高さHfは発熱速度と傾斜角度の双方に依存する結果を得た。矩形火源,線火源の場合は、付着距離Laは傾斜角度10°までは発熱速度にほとんど依存せず傾斜角度のみによって決まるが、傾斜角度20°以上では発熱速度が大きくなるにつれて付着距離も伸びる傾向が見られた。傾斜面上での火炎は、元の火源径Dと、斜面方向に向かって火炎が伸びた長さLaとの和D+Laを一辺とする火源から発生したものととらえて、新たな無次元数を導出したところ、火源形状や発熱速度,傾斜角度に依存せず、火炎高さを1つの関係で整理することができた。温度については、火災プルーム中心軸に沿った温度について、温度減衰の開始点が水平地でのそれより遠ざかるが、距離に対する依存度は水平地とほぼ同様であることが分かった。以上より、限座までの研究の進捗はおおむね順調であると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、まず平成23年度に引き続いて火災プルーム周囲の速度場を計測するとともに、数値シミュレーションにより速度ベクトル場を取得し、実験結果と比較することで、空気巻き込み挙動の可視化と定量化を図る。得られた速度分布と発熱速度,傾斜角度の間に成り立つ関係を実験と理論の両面から導出を試みて、傾斜面における火災プルームの空気巻き込み挙動のモデル化を図る。火炎形状及び温度性状等については、平成23年度に構築したモデルの妥当性を検証するために、異なる火源径及び発熱速度の実験を行う。また、モデルの一般化を図るため、理論的考察を十分にモデル内に組み込めるよう検討する。続いて、実施計画書の平成24年度実施予定の項目に記載した、「実火災を想定したモデルの拡張」に取り組む。自動車火災や住宅火災などでの窓からの噴出火炎等を想定した火源(立体火源)を作成し、23年度と同様の実験を行い、火源の幾何学的形状が火炎および熱気流性状に及ぼす影響を明らかにする。実験条件として立体火源の開口部の数を変化させる。また、より実火災に近づけたモデルにするためには、外気風の影響の検討が必要であることから、10m/s程度までの速度を発生可能な送風機を用いて、火炎および熱気流に横風を与えて、火炎形状,温度,熱流束,空気巻き込み挙動などを計測する。その結果を無風時の場合と比較して、横風が火災プルーム性状に及ぼす影響を明確化する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の計画に基づき、平成24年度は以下の予定で研究費を使用する計画である。(1)火源製作費:モデルの検証のため、平成23年度とは異なる形状・寸法をもつ火源を用いた実験が必要である。また、より実火災に近づけるために、立体火源や、ガスを燃料としない非定常火源への対応も必要である。そこで、これら数種類の火源を製作するための費用として使用する。(2)マスフローコントローラ導入費:本実験では供給しているガスの流量が2~20L/min程度であるが、これを精度よく制御するためには、マスフローコントローラの導入が望ましい。そこでマスフローコントローラの導入費として使用したい。(3)消耗品費:熱電対,二方向プローブ,微差圧トランスデューサ,熱流束センサー等の計測用センサーは実験上必須である。また本研究は火炎を対象にするため、これらのセンサーは基本的に消耗品である。これらの補充のための費用として使用する。(4)旅費及び学会参加費:本年度は平成23年度の成果を国内会議で1件,国際会議で1件すでに報告予定である。そのための旅費及び学会参加費として使用する。
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