研究課題/領域番号 |
23710200
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
今井 健太郎 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20554497)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 樹木群 / 水害 / 漂流物捕捉 |
研究概要 |
樹木群の漂流物捕捉機能の定量的評価手法の確立を目的として,現地調査から得られた樹木群諸条件や漂流物諸元に基づいた水理実験を行い,樹木群による漂流物捕捉機能について,不確実性を考慮した統計モデルに基づいた評価式を提案した. 2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震による津波災害において,津波浸水域における並木などの樹木群による津波漂流物の捕捉事例を空中写真で探査し,漂流物の捕捉状況の判読を行った.さらに,樹木群諸条件(樹高,幹部直径,立木密度など)や漂流物諸元(流木や船舶などの種類やそのサイズなど)に関して高精度GPS測位器を用いた詳細調査を行った.宮城県多賀城市の製材工場内に貯蓄されていた資材や車が津波により押し流されていたが,工場敷地を囲う屋敷林により,これら津波漂流物の敷地外への流出が阻止されていた事例が確認できた.これらの調査結果から,間欠のない林帯では漂流物捕捉数が多いことや,漂流物が群体となった場合には,その個々の代表長さが樹木の間隔より狭い場合でも捕捉することが可能であることを明らかにした. 漂流物捕捉機能に関わる物理因子についてより詳細な検討を行うために,現地調査における樹木群諸条件(樹高,幹部直径,立木密度など)や漂流物諸元(流木や船舶などの種類やそのサイズなど)に基づいた水理実験を行った.水理実験の結果から,首藤(1985)の植生厚みdn(d:樹木の幹直径,n:単位林帯幅あたりの立木本数),D/d(D:最大氾濫浸水深),Lm/lt(Lm:漂流物の代表長,lt:並木間隔),L/W(L:漂流物の縦横比)の無次元パラメータが並木の漂流物捕捉条件に関する物理因子として支配的であることを明らかにした.以上の無次元パラメータを用いて不確実性を考慮した統計モデルに基づく樹木群の漂流物捕捉機能の評価式を構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2011年東北地方太平洋沖地震津波における樹木群による漂流物捕捉に関する現地調査を行い,調査で得た知見を考慮した条件下での水理実験結果から,樹木群による漂流物捕捉条件に関する物理因子を抽出した.これら物理因子をパラメータとして,樹木群の漂流物捕捉機能を定量的かつ,不確実性を考慮した統計モデルに基づく評価式の構築を行い,既存の海岸林や並木の配置条件に対する各種漂流物に応じた捕捉機能の評価を可能とした.基礎的な検討としては本研究の目標を達成できたといえる. 一方で,当初の予定であった過去の津波や洪水などの事例収集については,2011年東北地方太平洋沖地震津波の現地調査を最優先としたために,十分に行われていない.過去の事例を再精査し,樹木群の漂流物捕捉を最大限に発揮する立木条件などについて,事例に基づくデータの蓄積を行う必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
過去の津波や洪水などの事例から,樹木群周辺での漂流物の挙動やその捕捉率に関するデータ収集を行う. 平成23年度に行った水理実験では,漂流物条件(漂流物のサイズ,その漂流初期位置や漂流にともなう分散の影響)に関する影響評価が不十分であった可能性があるため,他の研究機関が所有している大規模水槽を用いた水理実験を行う. 漂流物の衝突によって樹木に被害が生じる場合もあり,樹木被害発生にともなう捕捉機能低下に関する検討も必要である.この樹木被害発生指標を評価するために,実際の樹木に対して引き倒し試験を行い,立木条件に応じた樹木耐力評価を行う. 本研究で開発した漂流物捕捉確率に関する評価モデル,樹木耐力に関する評価モデルを氾濫流数値解析モデルに実装し,事例計算(2011年東北太平洋沖地震津波における仙台平野周辺など)を実施し,本研究で提案した評価モデルの適用性を確認するとともに,これまでに検討した評価手法を有機的に結びつけ,漂流物捕捉機能を最大限に発揮できる実効的な樹木配置パターンを提案する.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は,当初予定していた樹木群の漂流物捕捉に関する過去の事例調査を延期することによって生じたものであるため,平成23年度請求額と合わせて使用する予定である. 樹木群の漂流物捕捉に関する過去の事例調査として,和歌山県,高知県,秋田県の沿岸域における海岸林の立木条件調査を行う.高知県の沿岸樹木に対しては倒伏耐力試験を行う.また,漂流物のサイズ,その漂流初期位置や漂流にともなう分散の影響を評価するために,他の研究機関所有の大規模水槽を借用して水理実験を行う.このために,平成23年度請求額と合わせて調査移動旅費を積算している.また,現地調査や水理実験計測に使用する高性能ノートPCと調査・実験にともなう消耗品を積算している. 本研究で構築した評価手法を実装した氾濫解析用のデータ格納機のために電子計算機用消耗品を積算している. 本研究の成果を公表するために国内の学会で発表し,国際誌に投稿予定であるため,それぞれ投稿料と英文校閲費を積算している.
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