研究課題/領域番号 |
23710201
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
長谷川 健 茨城大学, 理学部, 助教 (00574196)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 火山 / ラハール / 災害対策 / 火砕流 / 岩石学 |
研究概要 |
本研究の目的は、那須火山から那珂川流域を100km以上流走して水戸市周辺に到達した巨大ラハールを対象に、その発生・運搬・堆積プロセスを解明し、将来のラハール災害対策に貢献することである。 平成23年度は、まず巨大ラハールが堆積する水戸市周辺を精査した。その結果、本堆積物には、少なくとも2種類の火砕流堆積物ブロックが含まれることと、斜長石巨晶に富む安山岩質の石質岩片が多数含まれることが分かった。これらの情報は、本堆積物の給源を追跡する際に重要となる。特に巨大なラハールは、一般に、山体崩壊に伴って発生する場合が多く、安山岩片は崩壊した山体を決定する鍵となり得る。次に、より上流の那珂川町で複数のラハールおよび岩屑なだれ堆積物を認識し、含まれる火砕流堆積物ブロックの岩相記載および室内分析から、水戸市周辺の巨大ラハールとの対比を行った。その結果、巨大ラハールは、那珂川町の黒磯・余笹川岩屑なだれと対比可能であることが分かった。また、火砕流堆積物ブロックは、本地域に分布する金和崎火砕流(約0.64Ma)および芦野火砕流(約1.3Ma)のものであることが分かった。このことから、巨大ラハールは、64万年前以降に発生したことが明らかとなった。 当該年度では那須火山(特に茶臼岳)の噴出物も採取した。今後は、研究協力者の協力も得ながらこれらの採取試料数を増やし、室内分析を行うことで、上記の安山岩片との給源対比を試みる。その際にはICP-MSによる高精度の岩石学的データが必要となるので、それに要する機器も揃えたところである。また、他火山のラハールとの比較研究も行った。北海道の摩周火山および千島列島の火山で発生したラハールの運搬・堆積メカニズムを、現地調査および室内分析によって解明し、これらの成果を公表した。これは、本研究対象との比較研究や火砕流を伴うラハール災害対策を進める上で重要な成果と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度の当初の研究計画では、巨大ラハールの給源追跡を完了することを目指していたが、実際には「研究実績の概要」で述べたとおり、追跡は那珂川の中~上流域までにとどまっている。今後は、巨大ラハールに含まれる安山岩片に着目して、野外調査と室内分析を行うことで、給源山体の決定ができると考えている。一方で、平成24年度に計画していた、他火山との比較研究を前倒しで行い、現段階で一定の成果を挙げることができているため、2ヵ年の通年として見た場合は、本研究計画はほとんど遅れはないものと考えている。 ラハールの追跡作業がやや遅れた理由としては、まず第一に、大震災による影響が挙げられる。予算の執行自体が遅れたため、研究に必要な道具を揃えたり、早期に旅費を使用できなかったことが影響した。また、調査対象地域の安全を考慮(斜面崩壊の危険性や放射線量のチェックなど)したため、実際の調査開始が遅れることになった。そして、地震による本学の設備(研究室、分析機器など)の損傷と故障も、少なからず本研究の進展に影響を与えた。 実際に研究を進める上では、ラハールに含まれる火砕流堆積物ブロックの対比において、予想していたよりも岩石学的特徴の差異によるラハールの識別・同定が容易でなかったことも、計画がやや遅れた理由のひとつに挙げられる。今後は、さらなる野外調査とICP-MSなどの精密分析を積極的に行って、高精度の地質学的および岩石学的データの収集に努めようと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、まず、巨大ラハールの給源山体を決定するための野外調査と室内分析を集中的に行う。そのためには、4月~7月の期間で野外調査をほぼ完了し、同時に室内分析も大半が完了させる予定である。あわせて、現在も噴気活動が活発で、将来の噴火や崩壊の危険性が高い茶臼岳を重点的に調査する。また、岩石の年代の一致・不一致からラハールと給源山体の対比も可能であるため、放射年代測定(例えばカリウム・アルゴン法)を行うことも考慮に入れる。 これらによって、巨大ラハールの給源火山を推定した後は、ほぼ当初の計画通り研究を推進する。すなわち、他火山のラハールとの比較研究を行う。そのためには、対象とするラハールの運搬・堆積時の特徴を定量化する必要があるので、電磁式ふるい振とう機を用いた堆積物の粒度分析や、段階熱消磁法を用いた堆積物の定置温度の推定を行う。最後に、那珂川流域の地形データ(空中写真やDEM)などを用いて、巨大ラハールが現在の茶臼岳から発生し得るか等を判定し、茶臼岳からのラハール災害のシナリオを作成する。実際には、野外調査と室内作業そして研究協力者らとの議論を何度も重ねながら、モデルを完成していくことになるであろう。最終的にこの結果を各自治体などに発信していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度はほぼ計画通りの予算執行を行ったが、平成24年度に77,941円を繰り越すこととなった。これは上記の達成度に記した理由により、野外調査旅費の消費がやや抑えられたためである。上記の通り、平成24年度は野外調査を重点的に行うため、研究協力者も含めた調査旅費(成果報告野ための学会参加も含む)として、60万円以上を見込んでいる。平成24年度に予定している比較的大きな額(10万円以上)の購入物品としては、堆積物の特徴を定量化するための電子天秤や顕微鏡画像撮影のための付属部品などである。また、化学分析に必要な機器使用料や消耗品を随時購入する必要がある。そして、最終的なラハール発生シナリオを作成するためには、研究対象地域の数値地図なども購入し、その成果をweb上で広く公表するためのホームページ作成ソフトなども必要と考えられる。これら物品の購入費として90万円程度を使用する予定である。 そして、研究成果を公表論文として科学雑誌に投稿するにあたり、英文校正費、投稿費あるいはカラー印刷費などの費用として10万円弱を使用する予定である。そのほかに、調査補助者(本学学生)に対する謝金や放射年代測定(例えばカリウム・アルゴン法)などにも、10万円前後の予算を使用する予定である。
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