水戸市周辺の那珂川下流域に認められる大規模な火山性の土石流堆積物(粟河層)を追跡調査し、防災のための情報提供を試みた。野外では堆積物の地質調査を行い、室内では堆積物に含まれる岩石試料の化学分析などを行った。 野外調査の結果、粟河層は、火山体の大規模な崩壊によって引き起こされる「岩なだれ堆積物」の特徴を持つことが判明した。さらに、含まれる岩石試料の、粒度分析や化学組成分析を行った結果、粟河層は、那珂川中~上流域に分布する岩なだれ堆積物のひとつ(=余笹川岩なだれ)に対比できることが分かった。岩石学的特徴を活用して岩なだれの地層対比を成功させた研究例はあまり報告がなく、本研究により岩なだれ研究の新たな手法の可能性も提示できた。 余笹川岩なだれは那須火山群を起源とすることから、粟河層の起源は那須火山群である。これらを一連の流れとすると、流動性の大きさを表すH/L値が約0.03と見積もられ、世界的にもあまり例がない長距離流走型の岩なだれである可能性が指摘できる。 余笹川岩なだれ下位の地層からは、高原火山起源の火砕流堆積物を発見し、この火砕流の年代から、粟河層の年代は64万年前よりも新しいことが分かった。粟河層が堆積する水戸近辺の丘陵地域(瓜連丘陵)の形成年代は、これまで不明であったが、この成果により本地域の地質発達史にも定量的な時間軸を導入できた。 現在、同規模のイベントを発生させるためには、今の那須火山群より標高が高い山体、或いは岩なだれの堆積後の二次流動、のいずれかの条件が必要であると想定される。従って、那珂川下流域の土石流災害対策を考えた場合、岩なだれの発生もさることながら、その二次流動(例えば天然ダムの決壊)にも十分留意する必要がある。仮に同規模のイベントが発生した場合、水戸近辺の那珂川流域に厚さ5 m以上の大量の土石を供給することになり、甚大な被害が予測される。
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