研究課題/領域番号 |
23710211
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研究機関 | 独立行政法人防災科学技術研究所 |
研究代表者 |
山口 悟 独立行政法人防災科学技術研究所, 観測・予測研究領域 雪氷防災研究センター, 主任研究員 (70425510)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 積雪物性値 / 積雪物理モデル |
研究概要 |
防災科研が所有する観測点のうち、気象条件が異なる以下の4個所:北海道ニセコ(標高800m)、新潟県妙高山(標高1300m)、新潟県田代(標高420m)、防災科研雪氷防災研究センター新庄支所(127m)に、2011年秋に雪温計を深さ別に設置し、一冬期間積雪の熱伝導率の変化を測定するとともに既存の施設を用いて気象要素の測定を行った。一部の観測点はいまだ雪があるためにデータの回収が終わっていないが、取得できたデータの解析により積雪のバルクの熱伝導率の気候依存性が明らかになることが期待される。平地における積雪物理モデルの精度評価に関しては、山形県新庄、新潟県長岡市、十日町の2008/2009, 2009/2010, 2010/2011の3冬期のデータを用いて計算を行った積雪変質モデルの結果と断面観測との比較を行った。その結果、積雪内部の水の移動も含めてモデルの結果は実際の観測をよく再現していることがわかった。このことは、積雪物理モデルを用いて面的に積雪物理量を計算する妥当性を示すものである。一方、積雪内部の不均一な水の移動を再現しきれていないなどモデルの問題点が明らかになった。積雪の物理特性の気候依存性を実験的に明らかにする取り組みとしては、低温室において積雪の物性値の一つである粘性係数の気圧依存性に関する実験を行った。従来積雪の粘性係数は雪温と密度のみの関数として考えられていたが、今回の実験結果は、積雪の粘性係数が気圧によっても変化することを示した。このことは標高の高い山(気圧の低い場所)では、雪の変質が平地と異なる可能性があることを表しており、H24年度以降研究を進めていくことで、山間地で発生する雪崩の予測精度向上に役立つことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
山地の積雪の熱伝導率を測定するための観測点の整備に関しては、おおむね順調に進んだ。一方、観測したデータの回収に関しては、2011/2012冬期の全国的な豪雪の影響で一部の観測点では現在でも残雪が残っており、未回収のままである。これに関しては雪解けを待って回収する予定である。当初予定であったポータブル熱特性計による積雪の熱伝導率の測定に関しては、この手法による測定の問題点を指摘する論文が出たため、論文の著者と議論を行い別の測定方法の検討を行った。その結果、確実に正確なデータを取得するために「ポータブル熱特性計」から「熱流量板」を用いた方法に変更をすることにした。なお、H23年度は、交付金が分割払いだったために熱流量板の発注が遅くなり、結果として今冬は雪が降る前に設置が間に合わなかったためにデータの取得ができなかった。長波に関しては、他の気象要素から推定する方法を検討したが、広域に推定した長波の精度等を議論するまでには至らなかった。今後は気象モデルなどの計算結果などとの比較などを通じて、面的に長波を推定する方法を確立する予定である。積雪物理モデルに関しては、予定していた新庄、長岡、十日町での比較に加え、アラスカの2点(フェアバンクス、バロー)において、モデルの計算結果と実測との比較を行った。その結果、気候帯が異なっていても積雪物理モデルは、比較的精度よく積雪の物性値を再現することがわかった。これに関しては論文としてまとめてすでに投稿済である。また積雪の粘性係数の気圧依存性に関しても学会で発表するとともに論文としてまとめてすでに投稿済である。このように一部で測器の設置ができなかったなど計画に遅れが生じた一方で、当初予定していなかった観測点でのモデルと実測との比較や新しい積雪物理過程の実験的研究などが進んだ。以上を踏まえると全体としては概ね研究は順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
積雪の熱伝導率測定方法の変更に伴い、H23年度に購入する予定だったポータブル熱特性計(86万円)を購入せずに、熱流量板(48万円)を購入したなどで、約28万円の繰り越しが生じた。繰り越し分に関しては、当初予定していなかったH24年度の国際学会参加のための旅費並びにそれに伴う論文として成果を公開するための費用として使用する予定である。2011/2012冬期に取得したデータの解析を進めるとともに、2012/2013冬期にも継続的に観測を行い、積雪物性値の気候依存性だけではなく、冬の気象条件によって積雪物性値がどのように変わるかに関する議論を行う予定である。積雪物理モデル(SNOWPACK)に関しては、2011/2012, 2012/2012冬期に関して複数の箇所で計算結果と断面観測の結果との比較を行い、SNOWPACKの問題点を明らかにするとともに改良を行う。特に現在考慮されていない、熱伝導率の雪質依存性、粘性係数の気圧依存性に関しては、低温室実験を通じて現象をモデル化し、その結果を基SNOWPACKの計算アルゴリズムの大幅な改良を行う。積雪の物性値の面的分布を求めるために、気象庁から提供される気候値(1980-2010)並びに防災科研が山地の所有する観測点のデータを入力とし、改良したSNOWPACKで面的な計算を行う。その結果から積雪の物性値の面的分布がどのように季節変化するのかの議論を行う。本研究で得られた知見に関しては、気象モデルに導入できるように「気候値から積雪物性の季節変化を推定する方法」としてまとめるとともに、実際に気象モデルに本研究成果を反映させるには, どのような形でデータ提供をするのがよいのかに関する検討を、広域気候モデルや地域気象モデルを使っている研究者と行う。研究成果に関しては、まとまり次第適宜国内外の学会で発表するととも、論文として発表をする。
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次年度の研究費の使用計画 |
2011/2012冬期に設置した雪温計の回収並びに2012/2013冬期の観測に向けた雪温計の設置のために、旅費を計上した。積雪の物性値の面的分布を求めるために、気象庁から提供される気候値(1980-2010)並びに防災科研が山地の所有する観測点のデータを入力とし、改良したSNOWPACKで計算を行う。そのために必要な大メモリ容量の計算機の購入を行う。当初2013年度に国際学会で発表する予定であったが、本研究の成果の一部を2012年9月にアラスカで行われる「International Snow Science Workshop」で発表するとともに英文誌である「Cold Regions Science and Technology」に論文投稿をする予定である。そのために必要な学会旅費並びに英文校正、投稿料を計上している。そのほか広域気候モデルや地域気象モデルを使っている研究者との議論を行うための旅費を計上している。
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