研究課題/領域番号 |
23710211
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研究機関 | 独立行政法人防災科学技術研究所 |
研究代表者 |
山口 悟 独立行政法人防災科学技術研究所, 観測・予測研究領域 雪氷防災研究センター, 主任研究員 (70425510)
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キーワード | 積雪構造 / 積雪変質モデル / 積雪の物性値 |
研究概要 |
昨年に引き続き防災科研が所有する観測点のうち4個所に、深さ別に雪温計を設置し、一冬期間積雪の熱伝導率の変化を測定するとともに既存の施設を用いて気象要素の測定を行った。一部の観測点においては、豪雪のためにセンサーのケーブルが破損してデータが取れなかったが、おおむね良好のデータが取得できた。2冬期間のデータの解析により積雪のバルクの熱伝導率の気候依存性が明らかになることが期待される。 平地における積雪物理モデルの精度評価に関しては、山形県新庄の3冬期、新潟県長岡市の8冬期に関して、積雪変質モデルの結果と断面観測との詳細な比較を行った。その結果、モデルでは密度、粒径が過小評価気味、雪温、含水率に関しては過大評価気味であることがわかった。またこの傾向は特に少雪年に強く出るということも分かった。 積雪の物理特性の気候依存性を実験的に明らかにする取り組みとしては、積雪内部の水蒸気移動が温度勾配下並びに等温条件下でどのように変化するかに関する低温室実験を行った。その結果、温度勾配が強いほど水蒸気の移動量が大きいこと、等温条件下では雪温が高いほうが水蒸気の移動量が大きいことがわかった。現在、より詳細な実験を行っている最中だが、本実験の結果は、積雪内部の熱伝導率のうち水蒸気の関与する部分のモデルの改良が期待される。 また従来の断面観測よりも詳細な積雪物性値を測定する方法として、積雪の近赤外領域の反射率を使って比表面積を測定する方法(NIR法)をグリーンランド並びに日本の雪(新潟県十日町市並びに新潟県長岡市)に適用することを試みた。その結果、雪が比較的乾いている状態では、従来の方法よりも細かい積雪構造の変化が測定可能であることがわかった。一方で雪が湿ってくると、実際の観測と比べてNIR法の観測値が大きめに出るということも分かった。これに関しては現在改良に向けた実験を行っている最中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
山地の積雪の熱伝導率の測定に関しては、おおむね順調に進み、取得データに関しては、現在モデルとの比較等の解析を行っている。また栃尾田代(423m)において、最大積雪深(積雪深460cm)を記録した時期に観測を行い、全層の詳細な積雪構造のデータを取得した。この時期、この地域では全層雪崩が多発していたので、本研究で得られた断面観測結果は積雪モデルの検証だけではなく、全層雪崩の予測という意味でも貴重なデータとなる。 平地に関しては、3地点(新潟県長岡市、十日町、山形県新庄)で、定期的にモデルの検証のための断面観測を行うとともに、長岡市、十日町市においては、NIR法によって詳細な積雪構造の観測も行った。 平地アメダスの気候値を用いた積雪の物性値の広域計算に関しては、膨大なデータを処理するためのアルゴリズムの開発が遅れ、現在まだ計算のテスト段階である。なおモデルの入力データを作成する過程で、本州の日本海側における冬期における気温別降水量に関する新しい知見が得られ、それについて国際学会で発表するとともに、論文として投稿し受理された。 一方本研究の成果をどのように気候モデル広域気候モデルや地域気象モデルを使っている研究者に利用してもらうかに関する研究打ち合わせを2回行い、今後どのように研究を発展させていくかに関する意見交換を行った。その際に将来の積雪の物性値の変化に関しても計算を行ったらどうかという意見があり、現在気候モデルからの将来予測の結果を積雪モデルに入れるための準備を行っている。 このように計算のアルゴリズムの開発の遅れが生じた一方で、入力データの作成中に当初予定していなかった日本海側における冬期における気温別降水量に関する新しい知見が得らえたほか、将来予測への本研究の進展に関する議論などが進んだ。以上を踏まえると全体としては概ね研究は順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
積雪物理モデル(SNOWPACK)に関して、複数の箇所で計算結果と断面観測の結果との比較を行い、モデルの問題点を明らかにするとともに、 改良にむけて現在考慮されていない熱伝導率の雪質依存性(水蒸気移動依存性)、粘性係数の気圧依存性等に関する低温室実験を行い、その結果を積雪モデルに反映させる。 気象庁から提供される気候値(1980-2010)並びに防災科研が山地の所有する観測点のデータを入力とし、改良したSNOWPACKで計算を行う。その結果から積雪の物性値の面的分布がどのように季節変化するのかの議論を行い、国際学会、国内の学会で研究成果を発表し、論文としてまとめる。 本研究で得られた知見に関しては、気象モデルに導入できるように「気候値から積雪物性の季節変化を推定する方法」としてまとめるとともに、気象モデルに本研究成果を反映させるには、どのような形でデータ提供をするのがよいのかに関する検討を、引き続き広域気候モデルや地域気象モデルを使っている研究者と行う。また将来予測に基づく入力データを作成し、積雪物性値の気候変動依存性を明らかにするとともに、それを基に雪氷災害が今後どのように変動していくかに関しても議論を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
2012年9月のアラスカの国際学会に参加予定だったが、妻の出産と重なり参加出来なかった。その代り2013年4月にフランスで行われた国際研究集会に参加した。その旅費の差額分12万円分を繰り越した。なお繰り越した分については、今年度の研究成果の発表として参加する学会の旅費に使用する予定である(後述)。 研究成果の一部を2013年10月にフランスで行われる「International Snow Science Workshop」で発表するとともに英文誌である「Cold Regions Science and Technology」に論文投稿をする予定である。また国内の学会(日本雪氷学会等)においても研究成果を発表する予定である。そのために必要な学会旅費並びに英文校正、投稿料を計上している。引き続き広域気候モデルや地域気象モデルを使っている研究者との議論を行うための旅費を計上している。そのほか追加実験に必要な消耗品並びに研究成果のとりまとめに必要な電子媒体等の購入のために必要な予算を計上している。
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