研究課題/領域番号 |
23710212
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
有吉 慶介 独立行政法人海洋研究開発機構, 地震津波・防災研究プロジェクト, 技術研究副主任 (20436075)
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キーワード | 海溝型巨大地震 |
研究概要 |
東北地方太平洋沖地震では,宮城沖から福島沖にかけて強い固着域の存在が示唆されている.このような状況の下で浅部ゆっくり地震震源域の活動の長期的時間変化を数値シミュレーションから調べた結果,巨大地震の発生前には浅部ゆっくり地震の活発化がみられるが,発生後から数年間は静穏化がみられることが示された.この特徴を実際の観測結果と比べると,岩手沖や茨城沖では,東北地方太平洋沖地震後にも活動が活発化したのに対して,福島沖や宮城沖では活動が静穏化しているという解析結果と調和的である.一方で,固着がそれほど強くないと仮定した数値モデルでは,巨大地震発生後にも活発化する傾向がみられた.これらの結果より,巨大地震発生後の浅部ゆっくり地震の活動変化によって,走行方向における固着強度を推定する手段の一つとなることが示された.一方,海溝型巨大地震が固着している期間では,深部ゆっくり地震は活動が定常的で移動現象を伴うのに対して,浅部では活動が不活発であり,移動現象もほとんどみられないか,あっても短距離であることが示された.このことは,浅部ゆっくり地震の方が深部よりも海溝型巨大地震の固着状況を敏感に反映し,モニタリングのためのツールとして,より有効性が高い可能性を示すものである. この結果は,東北沖において現在整備中である,日本海溝海底地震津波観測網の解析にも活用されることが期待される.この内容を学会や研究集会で発表した.今後,近いうちに論文にまとめる予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
浅部ゆっくり地震を用いた海溝型巨大地震の切迫度の評価は,他の観測手法では困難であった固着域近傍の状態が詳細に分かるため,今後の有効な解析手法となることが期待される.また,浅部ゆっくり地震が深部に比べて活動が不活発となっているのは,海溝型巨大地震震源域の固着の影響を強く受けるためという解釈も示すことができた.このことは,東南海沖(熊野灘)で観測された浅部ゆっくり地震の活動が散発化していることの説明につながる可能性もあり,観測結果の解釈を数値シミュレーションから行うかたちで融合的な研究を進めることが出来たと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では主に,浅部ゆっくり地震の活動に基づいた海溝型巨大地震震源域の固着状況の推定および切迫度の評価となった.一方で,近年になって海底観測網が進められている日本海溝海底地震津波観測網(東北沖)や地震・津波観測監視システム(DONET:南海トラフ沿い)では,水圧計も敷設されている.このことから,今後は浅部ゆっくり地震に伴う海底地殻変動について,水圧計で検知できるかどうかについて検証を行い,多角的な観測から切迫度の評価を試みる予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでの成果について,国際学会および国際学術論文への投稿などを通じて発表し,海外の研究者からの意見を取り入れることでさらに内容を発展させる予定である.また,小繰り返し地震や陸上GPSなどの結果も踏まえたかたちでモデル化を行うため,計算機の購入などを検討している.
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