研究概要 |
神経細胞は、最終分裂後、生涯分裂することなく生存する特殊な細胞である。神経細胞特異的に発現する遺伝子の多くは、AT-richで凝縮したゲノム環境に位置する。そのため、核内高次構造を介したエピゲノミックな発現制御機構が重要であり,私たちは、この過程に核マトリックスタンパク質hnRNP U/SAF-A/SP120とDNAトポイソメラーゼIIβ複合体が関与すると考えている。 本研究では、SP120のDNA認識機構に焦点を当てた。SP120は、DNAにもRNAにも結合する多機能性の核タンパク質で、N末に存在するSAF-boxがMAR特異的DNA結合に、C末に存在するRGG-boxがRNA結合に重要との報告がある。私たちは、RGG-boxを含むより広範なRGドメインが、RNA結合だけでなくMAR結合に重要なことを見いだした。RGドメイン単独でMAR結合活性があり、RGドメインのアルギニン残基をすべてリジン残基に置換した変異体は、非常に弱い活性しか示さなかった。SAF-box, RGドメインは、いずれもMARに特異的かつ協同的に結合するが、異なる結合様式を示す。第一に、AT-rich DNAの副溝に結合するnetropsinは、RGドメインのMAR結合を特異的に阻害した。一方、SAF-boxのMAR結合活性は、netropsinで予想外に促進された。第二に、RGドメインは低濃度、低密度で高い結合活性を示すのに対し、SAF-boxは、密度依存的に急激に結合活性が上昇した。以上の結果は、核内に散在する複数のSP120が、RGドメインによりAT-rich DNAに複数存在するATホモストレッチを認識して集合し、SP120の局所濃度が高まる結果、SAF-boxが効果的にMARを認識する機構を示唆する。今後、神経細胞におけるSP120のMAR認識の重要性に関して明らかにしていく予定である。
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